世界(異界)を創造する作家、遠藤徹さんの連載小説『贄の王』(第12回)をアップしましたぁ。今回は冒頭に「ぎしぎしと世界が軋んでいた。何か強力な力で潰されるような感じ。空気が堅く重く押し固められて、呼吸が苦しい。そうなのだ、圧し拉がれて世界が縮みつつあったのだ」とあるように、文字通り世界が軋み歪んでおります。
『贄の王』のような小説はとても稀です。もちろん今回の擁舜を始めとして、複数の登場人物に沿って物語は進みますが、この小説の主人公は〝世界〟そのものなのです。リゾーム状に蠢く世界が、ある登場人物にとっては善として、ある登場人物にとっては悪として現象するわけです。そこに世界は全体として動く、あるいは世界の様々な意志の現れとして人間存在があるという、作家の思想があるでしょうね。
「さあ、おいで」
母は、いや偽りの母、死の傀儡でしかない母は残された幼い弟をもういちど強く抱いた。羽交い締めにした。
「五年も生きれば十分だよ」
そう言って、足を踏み入れたのだ。生贄に飢えた館の中へ。最後の戦いに備える、巨大なる未知の力の中へ。
こういったエクリチュールには、遠藤さんならではの残酷は美しさがあります。彼がまずホラー作家として世の中に認知された背景には、巨大で残酷な世界の意志に比べれば、人間存在はちっぽけなものであるといふ認識があるでせうね。そしてもちろん、遠藤さんが捉える世界においては、生け贄や死は生と密接に関係しているのであります。
■ 遠藤徹 連載小説 『贄の王』(第12回) テキスト版 ■