山田隆道さんの新連載小説『家を看取る日』(第05回)をアップしましたぁ。今回から話者主体が新一さんから奥さんの亜由美さんに変わります。いわゆる二視点小説であります。夫の家庭の事情で転居、しかも東京育ちの奥さんが、小学生の子供も二人を連れて大阪転居を考えるとなると、こりは一波乱もふた波乱もありますわねぇ。そこのところを山田さんは奥さんの視点で描いてゆかれるやうです。
「だよねー。同居なんてマジ最悪ー!」
「内藤さん、超かわいそー!」
二人の会話を聞いているうちに、だんだん複雑な気持ちになってきた。
ああ、そうか――。女が夫の両親と同居するのは、一般的には最悪なことなのか。内藤さんは夫に巻き添えにされた、かわいそうな存在になるのか。
それはつまり、私も近いうちに同じような目を向けられるということだ。自分では微塵も思っていなかったことだけに、突然うしろから頭をはたかれたような衝撃を受けた。私自身がどれだけ前向きに大阪行きを受け入れようとも、周りは勝手にそういう憐れみを抱く。まるでサーカス一座に囲われた動物のように、一方向からの理屈だけで同情されてしまう。それが現実のようだ。
現状の世の中には男の世界と女の世界がごぢゃります。それを肯定するにせよ否定するにせよ、何らかの形で現状を捉える必要があります。小説の場合、まずそれを一般社会に通有のイメージや価値観としていったん引き受けた上で、プラスアルファを表現してゆくのが最も効果的だと思います。もちろんアウトロー小説とかヒーローは存在しますが、社会的規範を重々承知していなければそれを〝外れる〟ことはできないわけです。
亜由美さんは「私にとって、したがうことは屈することではない。したがうことは自分を捨てることでもない。したがうことこそ、私の主体性なのだ」と独白します。彼女の主体性がどのように父と息子の男の世界に影響を及ぼすのか楽しみでありますぅ。
■ 山田隆道 新連載小説 『家を看取る日』(第05回) pdf版 ■
■ 山田隆道 新連載小説 『家を看取る日』(第05回) テキスト版 ■