世界(異界)を創造する作家、遠藤徹さんの連載小説『贄の王』(第08回)をアップしましたぁ。今回は「濡巴」と呼ばれる新しい人物が登場します。嘉果の愛しい人・愉戒耶の兄です。ただ濡巴は自由だけど既に死んでいる人、愉戒耶は永劫の苦しみに囚われているのですが生きている人として描かれています。遠藤ワールドではこのようなウロボロスのような循環性が続くのでありまふ。
またそれは人間だけではありません。「よく見ると、垂れ落ちた蝋が、ゆっくりと元に返って行く。もう一度燃えて溶けたいのだとばかり、ふたたび蝋燭の上を這い登ってゆくのだった。蝋燭の周りでだけ時間が循環してでもいるかのようだった。すなわちそれは永遠に燃え尽きることのない蝋燭なのであった」といふ描写もあります。生物だけでなく、物もまた循環的な世界を体現しているわけです。ただ『贄の王』の作品世界では、遠藤作品の基本テーマである循環的調和性が崩れようとしている。それがどういう性質の物なのか、世界にどんな影響を与えるのかが作品の焦点といふことになるでせうね。
思想という面で捉えれば、遠藤さんのそれは意外にオーソドックスで基盤のしっかりしたものだと思います。でも作品になるとまったく違ってくる。ちょっと極端かもしれませんが、遠藤さんは世界が足元からグルリと変わってゆくような不安を小説で表現なさろうとしているようなところがあります。いまさら変わりようのない世界が変わってゆく不安と驚きと申しましょうか。遠藤作品が古典的相貌を持ちながらSF的である理由もそこにあるやうな気がします。
■ 遠藤徹 連載小説 『贄の王』(第08回) テキスト版 ■