第1回 辻原登奨励小説賞受賞作 小松剛生『切れ端に書く』 講評と受賞の言葉をアップしましたぁ。辻原さんは小松さんの作品について、『実体験が伴わないメタフィクションを薄っぺらに終わらせないためには、自身が何を、何のために書いているのかを見失わないことだ。思い入れのある実体験ではないから、場合によっては文学そのものに対する見識が問われる』と書いておられます。的確な講評です。不肖・石川は、小松さんは辻原さんの期待にそむかない文学に対する高い〝見識〟を持っておられると思います。
小松さんは『受賞の言葉』でホセ・ドノソの『別荘』の読後感を踏まえた上で、『文章を書くことは、少年たちが槍を抜く行為に似ている気がします。僕も「柵の向こう側」に行きたいのです。ただそこが果たしてどういう場所なのか、何があるのかは、槍を抜いている僕にもわかりません。わからないままに、文章を書いています。・・・この先も「柵の向こう側」を目指します。そこに何が待ち受けているかはわかりませんが』と書いておられます。優れた作品を書きたいというだけでなく、新しいタイプの作品を生み出したいという小松さんの強い意志を感じます。
『切れ端に書く』は80枚ほどの作品ですが、純文学とも大衆文学とも異なる意欲的な小説です。どういう目的を持って、どんな到達点を目指して自分は小説を書いてゆくのかを、背伸びをしない等身大の視点から描いた作品だと言うこともできると思います。その意味でまさに小松さんの処女作にふさわしい小説です。このような優れた作品を第1回金魚屋新人賞に選ぶことができたのを、不肖・石川は幸せに思います。『切れ端に書く』の第1回目は明日アップします。
■ 第1回 辻原登奨励小説賞受賞作 小松剛生『切れ端に書く』 講評と受賞の言葉 ■