第1回 辻原登奨励小説賞受賞作 三澤楓『教室のアトピー』(第04回)をアップしましたぁ。弱者であるはずのいじめられっ子の意外なほどのしたたかさと強さ、いじめに参加してしまっている主人公の、傍観者ゆえの客観性と弱さが見事に描き切られています。
「ふと逸らした視線の先、窓に反射した輪郭のはっきりしないシルエットが、通学中のカーブミラーへ移りこんだ自分だか谷口だか分からない存在と重なって、眩暈を感じた」という記述は小説ならではのものです。秘密の暴露は小説的仕掛けに過ぎず、読者がもやもやとして割り切れない感覚を抱くならこの作品は成功です。それが小説というものだからです。
詩や小説といったジャンルに限らず、作家がたどる道は同じようなものです。まずある程度完成された作品をきちんと一作仕上げる。それだけでも大変な労力です。それを何作か続けて一冊の書物分を書く。もちろんこの場合、一冊の本を貫く主題が設定されていなければなりません。ただ優れた作家なら、読者から賞賛を受けたとしても処女作は不満が残るのが常です。書き方が硬い。つまり自由に書いたという気がしない。もっと自在に書きたいと強く望む所から、本当の意味で作家は誕生するのではないかと思います。
学校やいじめを題材にした小説は現在では一つのジャンルを形成していると言っていいですが、三澤楓さん独自のアプローチ方法によってさらなる新境地を開拓できると思います。辻原登さんが講評でお書きになったように、「この短篇レベルのものを続けて読ませてもらえるなら、書き手に未来はある」わけです。戦いは始まったばかりですが、戦い始めたからにはなんらかの成果を得なければなりません。今後の三澤さんの作品に期待ですっ!。