【公演情報】
公演名 東京発・伝統WA感動『日本の伝統芸能×ストリートダンス Part 2』
演目 第1部『ストリートダンス×歌舞伎』
第2部 木ノ下歌舞伎『三番叟』(さんばそう)
会場 スパイラルホール
公演日 9月27日
東京文化発信プロジェクトによる「東京発・伝統WA感動」は、平成26年7月から27年3月にかけて開催される文化企画であり、日本の伝統芸能の国内外への発信を目的とする。全11プログラムを含むこの企画のもう一つの狙いは、伝統文化と現代の出会いによって、「和の心」を次世代に伝えることである。
「東京発・伝統WA感動」の公演の一つとして、『日本の伝統芸能×ストリートダンス Part 2』が9月27日にスパイラルホールにて行われた。
公演の第1部はストリートダンスと歌舞伎のコラボレーション企画だった。事前に行われた伝統芸能ワークショップに参加したストリートダンサーは、古典舞踊の動きを自分たちのダンスに取り入れ、この過程で新しく創作された作品をこの日に披露するという企画だった。出演した5組は、それぞれの個性やコンセプトを持つ10代を中心とするダンスチームだった。
第2部は、京都を拠点とする木ノ下歌舞伎による『三番叟』だった。木ノ下裕一主宰の木ノ下歌舞伎は古典芸能の作品を再解釈し、現代風に新しく作り上げることで、現在注目を浴びる演劇ユニットである。杉原邦生演出の『三番叟』は2008年に初めて発表された作品であり、現在まで数回再演された人気のダンス作品だ。この公演は、能楽の演目として狂言方に演じられる古典的な『三番叟』、または歌舞伎の同名の舞踊演目に基づいて新しく作られた演目である。
ストリートダンスと日本舞踊を融合させる試みだった第1部は、事前に行われたワークショップの成果を発表する機会だった。公演の初めにワークショップの映像が流れた。1時間半にわたって行われたワークショップの目的は、子ども達が歌舞伎の基本的な動きを体験して、それをできるだけ身につけることだった。歌舞伎舞踊にはじめて挑んだ若者たちにとって新鮮で楽しい体験だったことが映像で伝わった。ワークショップが終わった後に、子ども達はそこで習った動きを活かして、自分たちでストリートダンスを作るという課題を受けた。
しかしこのように行われた伝統芸能とストリートダンスの融合が見事にいったとは言いがたい。1時間半の短い間に出演者に日本舞踊の型を身につけさせようというのはやはり無理で、この企画は当初から大きな問題があった。若いパフォーマー達のダンスを見て、不思議な感じがした。ダンサー達の洋服には和柄があって、ヴィジュアル的には確かに「和」の雰囲気が生み出されたのだが、ダンスの面では、日本舞踊的な動きは「異化」された形を取った。まるで日本の伝統芸能の様式が一回海外で再構成されてから、再び日本で発表されたような違和を感じさせた。
多くの若者の憧れの対象であるストリートダンスは自由な踊りを基本とする、解放感溢れるダンスである。一方、歌舞伎独特の日本舞踊には型があり、その型は意味を持っているので決められた風にしか動けない。「いかにも自由に踊る」ことと「型に従う」ことは、異なる心持を必要とする。とは言っても、ダンス表現においてこの対照的な姿勢を上手に融合させるのは不可能ではない。それぞれの踊り方の心に忠実でありながら、表現において何回も色々を試した上で、誰もが納得できるような成果が出せるはずなのだ。踊りの楽しさや、観ている相手を最高の技で驚かせたい、感心させたい気持ちはどの踊り方にも共通しているので、その心を出発点として、動きの意味や自分の表現したいことを考えればよい。
「東京発・伝統WA感動」というプログラムの一つの目的は、日本文化の「根底にある「和の心」を次世代に継承していくこと」だそうだが、上辺だけで「和の心」の継承に挑むのは残念な結果だけを生み出すのみで、避けるべきだろう。この企画はできるだけ伝統芸能に真摯に取り組む表現者の力を借りて、時間をかけて実践してみる方が良いと思う。
伝統芸能と現代の舞台芸術の融合が不可能ではないことを証明したのは、第2部の木ノ下歌舞伎による『三番叟』だった。『三番叟』は能の『翁』という演目の最後の部分に当る舞事で、狂言方に演じられる。何百年前から舞自体だけが伝えられ、その特殊な振り付けの意味を説明する書などはない。ただ、五穀豊穣を祈る舞であることに間違いない。『翁』は儀式的な舞事で、祝祭的な演目であるが、三番叟が舞う強いリズムの舞は滑稽な要素を含み、全体的には極めてめでたい雰囲気がある。
木ノ下歌舞伎の『三番叟』は、一人が演じる三番叟の役だけではなく、能楽の『翁』の登場人物、つまり翁、千歳、三番叟に当る3人のパフォーマー(芦谷康介、京極朋彦、竹内英明)を登場させる。今でも能の研究者を悩ませる翁の謎の言葉「とうとうたらりたらりら…」をそのまま最初に観客に聞かせて、しばらく続く沈黙の後、『三番叟』に相応しい勢いのあるテンポに入る。パフォーマーの動きの中には、しばしば伝統的な『三番叟』の舞を連想させる要素が見られる。伝統的な型に現代的な振り付けが当てられているわけだが、各所作の働きに対応する現代的要素がある。
木ノ下歌舞伎のパフォーマンスには、古文書の優れた現代語訳のような「トランスレーション」プロセスが確認できた。古い文章の現代語訳に取り組む時は、翻訳によって原文の魅力をできるだけ忠実に伝えることを目指すと同時に、解きがたい謎を含む文章なら、その謎を訳者の主観で暴くことを避けなければならない。この作業は、読者(舞台公演の場合は観客)の楽しみを守るための配慮でもある。木ノ下歌舞伎の『三番叟』は表現の形だけを変えて、この伝統的な演目元来の謎と、めでたい雰囲気をそのままに観客に伝えていた。
今回の公演『日本の伝統芸能×ストリートダンス Part 2』全体を観て、現代ダンスと伝統芸能の融合の可能性について改めて考える必要があると感じた。現代ダンスにも伝統芸能にも欠かせない大事な要素の一つは、やはり品格である。元々は路上で発生したストリートダンスだからといって、品格がなくていいわけではない。人を魅了する芸術を目指すに当り、本当の意味で「かっこいい」ものはどの時代でも、どの世代にもかっこよく見える。その根本にあるものは、昔も現在も変わらない。
ラモーナ ツァラヌ
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■