世界(異界)を創造する作家、遠藤徹さんの連載小説『贄の王』(第03回)をアップしましたぁ。『贄の王』はある世界の全体像を描く作品ですから、主人公を特定できる(する)かどうかは議論のあるところですが、物語の秘密の中心といふべき嘉果と、その慰みもので恋人でもある愉戒耶の章です。愉戒耶は〝新しき者たち〟の到来を触れ回ったゆえに、嘉果の父の璽椰鵡によって『手も足ももがれた上に、舌さえ抜かれて』います。それを嘉果が『わたくし、しっかり辱めてやりますわ』と父に言って、慰みものとしてもらいうけた。しかし嘉果は愉戒耶に惹かれている。ほとんど恋人だと言ってよい。
嘉果は不自由な身体の愉戒耶を愛撫しながら、『お前は戦うのです。戦ってくれるのです。ひたすらに、わたしのためだけに剣を突き立て、振り下ろしてくれるのです。・・・お前が誰を殺そうと構いはしない。・・・だって、それはわたしのためなのだから。・・・殺して! もっと殺して、わたしのために! わたしへの愛の証として』と独白します。彼女は父の璽椰鵡にとっては権力基盤である古き者たちの世界を維持するための要ですが、彼女自身が破壊と新生への欲望を秘めている。嘉果は古き者たちと新しき者たち双方にとってキーになる存在なのでしょうね。
ほんで遠藤さんの『贄の王』は極めて視覚的要素に富んだ作品だと思います。単語の使い方、現実とは異なる事物の描写など、ある物体の形を読者に想像させるように書かれています。ですから文学金魚連載で写真を入れると、どーなるかなーと思っていましたが、案外マッチしていると思います。もちろん作品世界で描かれる異界を特定するようヴィジュアルは使っていないのですが、作品の言葉の方が易々とヴィジュアルを受け入れてしまったような感じがします。
このあたり、やっぱりいい作品ですね。挿画などで作品のイメージに沿ったヴィジュアルを作るよりも、世界に散らばっているイメージ(ヴィジュアル)をポンと作品の中に置いた方が効果的なやうな気がします。文字表現は確固としていますが、それが発散するイメージが多様なのであります。
■ 遠藤徹 連載小説 『贄の王』(第03回) テキスト版 ■