星隆弘さんの 『Ongaku & Bungaku by Kingyo』 『No.023 君の輪郭に水平線を憶えるとき-前野健太『興味があるの』』 をアップしましたぁ。独自の活動を精力的に続けておられるシンガーソングライター・前野健太さんの曲を取り上げておられます。前野さんの『興味があるの』の歌詞に、『君のお父さんか、君の子供にでもなったみたい』があります。これについて星さんは、『血のつながらない、他人の手が。最接近し、それでも残る距離を見つめる、これは異邦人の歌だ』と批評しておられます。
前野さんは、独特の楽曲の作り方をされるミュージシャンだと思います。詩の世界では〝ペルソナ〟という言い方をしますが、時代や性別を超えて、ある人物に憑依して、その人物の言葉(感情・思想)として詩を書いてゆく詩法です。架空の主人公を設定する小説では当たり前の方法ですが、言葉数の少ない詩の場合、完全にある人物になりきるということはなく、むしろそれが架空の仮面であるといふことを種明かしした上で言葉を綴ってゆきます。どこまでがフィクションでどこからが作家の思想なのかわかりにくくなりますから、言葉の表現内容に厚みが出るわけです。
前野さんの方法はそれに近いかな。インタビューでは『僕の感情そのものではなくて、僕の感情で見た景色を描けているかどうかが重要。そこで僕の感情で見ている景色を、ちゃんと言葉を配置して丁寧に描けば、苦しいとか言わなくてもその感情が伝わるし、それは誰かの感情っぽくなる』と語っておられます。
また一方で前野さんは、露骨で即物的なセックス描写もお好きであります(爆)。この系統の楽曲はかなりの数があるので、前野さんが男女の性愛を大きなテーマにしておられるのも確かだと思います。男女の恋愛もセックスも相対化して眺めれば常道性です。いつも同じことを繰り返している。そこに揺さぶりをかけるために、スキャンダラスな表現をすると同時に、それが常道性であることを暴露するような方法もあります。星さんは、『その大半は欲望の満たし方に目を向けている。しかし、まさに浜辺の砂粒ほどある愛の歌の中で、本作は異彩を放つ。決して愛を叫ぶ事なく、波音に耳を澄ましている』と批評しておられます。
■ 星隆弘 『Ongaku & Bungaku by Kingyo』 『No.023 君の輪郭に水平線を憶えるとき-前野健太『興味があるの』』 ■