遠藤徹 連載小説『虚構探偵―『三四郎』殺人事件―』(第40回)をアップしましたぁ。謎解きの回です。小説の無意識が殺人事件になっていたわけです。
「わかりやすくいえば、野々宮は科学という島であり、広田は文学という島であり、原田は美術という島である。さらにいえば三四郎は正科生であり将来の島の卵である。島であるからそれぞれに動かない。これに対し、与次郎はどこにも属してないだろ? 働いていないから企業にも役所にも所属していないし、大学生とはいっても選科生だから正式な大学の所属者ではないし、広田の家に居候していて実家が果たしてほんとうにあるのかどうかも定かではない。さらには、女をたぶらかすために、偽医学生のような偽りの帰属を捏造したりもする。つまり、与次郎はアイデンティティのよりどころとなる場をもっていないんだ。それは、もしかしたらあえて持たないということなのかもしれない。なぜなら、彼はいわゆる道化であり、媒介者、あるいは触媒であるからだ。自分の領分を持たないから、どこへでも行けるが、何者にもなれない。とはいえ、この越境者なくしては、それぞれに動かない島である彼らはつながり得なかった。いるけどいない存在。いないけどいる存在が与次郎。服装も表情も描かれることはない。声としてのみ現れる存在」
遠藤徹『虚構探偵―『三四郎』殺人事件―』
与次郎が「どこへでも行けるが、何者にもなれない」、けれども「越境者」であるのは確かです。『三四郎』という物語を繋ぎ前に進める牽引者の役割を負っている。道化なのですが、そそのかす者でもある。意識的に書かれた物語の無意識を追ってゆけば、与次郎がとても重要な登場人物だということがわかります。
■遠藤徹 連載小説『虚構探偵―『三四郎』殺人事件―』(第40回)縦書版■
■遠藤徹 連載小説『虚構探偵―『三四郎』殺人事件―』(第40回)横書版■
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