ラモーナ・ツァラヌさんの連載小説『思い出の谷』(三)をアップしましたぁ。ラモーナさんの故郷・ルーマニアを舞台にした初めての小説です。ラモーナさんの小説は『思い出の谷』で4作目です。
ラモーナさんはファンタジー系の作品を得意とされるようですが、ファンタジーが単なる夢想とか空想で終わってしまうと当然面白くない。現実との関係性によってファンタジーが活かされなければなりません。現実と理想の間には超えがたいギャップがあるわけですが、これは論理などでは決して超えられない。だから小説という形態が必要とされるわけです。現実と理想のギャップをなんとか超えてみせるのがファンタジー小説の醍醐味です。つまり現実と理想とのギャップが大きければ大きいほど小説は面白くなる。
それはラモーナさんが研究しておられる能楽と通じるところがあるかもしれません。能のストーリーはホントに絶望的です。幽鬼が舞台に現れて、とにかく辛い、恨めしいといったこの世への執念を語り続けます。で、最後はお坊さんが成仏させてあげるのですが、ぜんぜん成仏なんかしません。次の舞台が始まればまた幽鬼が現れて恨み言を繰り返すわけです。
でも能楽の舞台は実に華やかです。能衣装ほど豪華な衣装はないでしょうね。所作なども同じ。実に洗練されている。それは能楽が発生した室町時代から変わっていません。世阿弥は貴人に披露する芸なのだから、洗練を極めなければならないと繰り返し言っています。夢幻能と言われるように、夢うつつのはざまで幽鬼が現れて恨み言を言い、それをもしかすると彼らを殺したかもしれない権力者たちが、はらはらと涙を流しながら見る。矛盾だらけなのですが全体としては統一されている。
ファンタジー小説がお能に近い面があるのは矛盾の統一という点かもしれません。理詰めでやってしまうと面白くない。かといって荒唐無稽な設定だとリアリティが大きく損なわれてしまう。あくまで現実に即しながら出来事が起きる時は起きるというのが理想的です。ただこの出来事は永続してはいけない。異界が垣間見えるように、目の端に映ってスッと消えてゆくような一種の奇跡である必要があります。
■ ラモーナ・ツァラヌ 連載小説『思い出の谷』(三)縦書版 ■
■ ラモーナ・ツァラヌ 連載小説『思い出の谷』(三)横書版 ■
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