連載翻訳小説 e.e カミングス著/星隆弘訳『伽藍』(第39回)をアップしましたぁ。掃き溜めの中の聖人〝修理屋〟の話の続きです。この男、掃除係でもあったので、物事を掃除するクセがあるようです。『女たちは、少なくとも彼にとっては二種類、二種類しかなかった。まともな女(レ・ファム・オネ)と娼婦(レ・ピュタン)だ』とあります。ちょいと極端ですが、修理屋はとっても愛妻家でもあったようです。
また『ロシアの雪景色が懐かしい』と手紙に書いただけで収容所に送られたロシア人女性がいたようです。共産主義者のスパイかなんかと間違えられたんでしょうね。『伽藍』は第一次世界大戦中のお話ですが、こういうことは今でも起きます。一度嫌疑がかかるとそれをひっくり返すのはなかなか難しい。オフィシャルは間違いを認めたがらないからでもあります。釈放されるにしても、まったくの潔白でしたという前提で釈放されるのはまれですね。
大きな戦争や紛争になるかどうかはわかりませんが、現代は第二次世界大戦後のレジームが間違いなく変わるだろう時期です。誰もが大きな社会変動の影響を受けるのですが、作家の場合、それを直接的に表現するのか別の方法を採るのかという選択肢があります。ロスト・ジェネレーションの場合、ヘミングウェイは前者でフィッツジェラルドはハッキリ後者ということになります。カミングスやパウンドは中間ですね。戦争に振り回されましたが、それを直接的な題材にしたわけではない。
歴史は繰り返し、かつ決して過去と同じような形では繰り返しません。ただ人間は太古の昔から意外と変化していないものです。今は情報化時代の端緒の時期ですから新しさにばかり目が行きますが、普遍要素は相変わらず残っている。『伽藍』のような人間臭い状態に置かれることだって十分あり得ます。新しい経験は新しい表現を生みますが、その場合でも人間の記憶は新しさの深みとなって出ます。古典作品には学ぶべき点が多いのです。
■ e.e.カミングス著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第五章 大部屋の面々』(第39回)縦書版 ■
■ e.e.カミングス著/星隆弘訳 連載翻訳小説『伽藍』『第五章 大部屋の面々』(第39回)横書版 ■
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