遠藤徹さんの連載小説『ムネモシュネの地図』『第12回 (四)象の耳(プライベート・プレーン)(中編)』をアップしましたぁ。種山先生は35歳で意外と若かったんですね。天才肌の学者に造形されていますが、ぜんぜんカッコよくないところがよござんす。先生は自分の学問を『総合〈知〉』だと説明していますが、これは遠藤さんの作家としてのスタンスでもあるでしょうね。彼の小説を純文学とかエンタメに分類するのは、作家本位で見ればあまり意味のないことです。
社会が大きく変化していて、つまり技術革新によって産業システムが変わり始めているので、それに呼応して20世紀的社会フレームも変わりつつあります。20世紀的社会フレームとは第二次世界大戦以降の世界秩序、あるいは序列であり、もっと言えば、19世紀中頃に始まった産業革命がもたらした世界秩序(序列)のことです。現代の変革に呼応して文学は変わっていかなければなりません。文学は人間精神を描く人文学の一つでもあるわけですから、真っ先に変化の本質を捉えなければならない。でもそうなっていませんね。
石川は文学の世界は以前よりむしろ保守化しているように感じます。新しいこと、つまりは新たな世界に対応した新たな文学を生み出そうとしても、どうしていいか文学者にはわからない。試みても結果的に失敗している。そのため既存の文学権威にしがみつく姿勢が目立っています。純文学とエンタメのジャンル縦割りはどんどん厳しくなり、作家もまた、既存の文学システムを壊してまで自己の表現欲求を押し通そうとしない。むしろ既存の文学出世レールに乗っかろうという姿勢が目立ちます。その先にあるのは文壇的出世かもしれませんが、現実にはそれは売れない作家になることとほぼ同義です。
ただこういう時代にこそ、物事を原理的に捉え、自分自身の思想を持たなければなりません。遠藤さんは小説家ですが、20世紀資本主義文化を根本から問い直そうとしている学者でもあります。彼は元々器用な作家ですからホラー作家としてデビューしましたが、ここに来てあらゆるタイプの作品を自己の表現欲求に従って書きまくる作家に変貌しつつあります。まあ元からホラー専門の作家でなかったから当然と言えば当然です。石川、遠藤さんの姿勢は正しいと思います。好き勝手やるのが正しいと言っているわけではありません。遠藤さんの精神の全体的流れを見ていて、これは正しい方向に進んでいると思うのです。
■ 遠藤徹 連載小説『ムネモシュネの地図』『第12回 (四)象の耳(プライベート・プレーン)(中編)』縦書版 ■
■ 遠藤徹 連載小説『ムネモシュネの地図』『第12回 (四)象の耳(プライベート・プレーン)(中編)』横書版 ■
■ 第06回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第06回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
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