寅間心閑(とらま しんかん)さんの連載小説『松の牢』(第07回)をアップしましたぁ。『松の牢』は第四章で最終です。前編、後編の二回に分けて掲載します。この作品は連載ごとに送ってもらっていて、石川も長さを把握しておりませんでした。第四章で完結はちょいと短いかなと思いましたが、主人公と妹の対峙がこの作品のポイントだったのですね。かなり迫力のある対峙になっています。
冒頭で主人公の女性は妊娠していて、その夫は前科者であることが示されています。一筋縄ではいかない夫婦がいるわけですが、主人公の妹はさらに厄介な状況にある。男女を問わず小説で描かれた妹のような人はいますね。なりふりかまわず、すがりついてくるわけですが、誰かに助けてもらうことなどできないし、そんなことが起こるなんて、本当のところ信じてはいない。だけど自己の存在の証のように、誰かとコミュニケーションを取らずにいられない。一種の絶望小説です。
ただ主人公の妹だけでなく、主人公の夫も、主人公本人も多かれ少なかれ絶望を抱えているはずです。そういう意味では『松の牢』という小説で示された世界はまだ断片的で、全体像はもっと大きな広がりを持っています。つまり作家にはまだまだ書きたいことがある。それが一番大事なポイントでしょうね。寅間さんという作家にはテーマがあり、それを追い詰めてゆくための愉楽があるということです。
作家は一つ作品を書くだけで苦労していると思いますが、さらにそれをまとめるということを、どこかの時点で考えなければなりません。簡単に言うと本という閉じたパッケージとして自己のある時点での世界観を完結させ、いったん葬り去ることを覚える必要があります。石川は編集者ですが、編集者から手取り足取り作品の完結のさせ方を教えてもらうのは、あまり感心しません。四方八方に伸びてゆき、とりとめがつかなくなりそうな作品(群)を統御する能力は作家に不可欠です。苦しくてもそれは自分で体得するしかないと思います。でないと肉にならない。『松の牢』は短編集の一作としては上々の出来だと思います。
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