小松剛生さんの連載ショートショート小説『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『第05回 かつて素晴らしき掃除機であったというSF/四回戦ボクサーの失敗/距離という名のロマン』をアップしましたぁ。今回も魅力的な3本です。最初の『かつて素晴らしき掃除機であったというSF』では小松さんの資質が活き活きと躍動しています。
やっかいなことがひとつ、ある。
それはSFという机にはかの有名な「なんとなくにかける橋」はかけられないのだ。
そこに「なんとなく」は通用しない。
逆説的に言えば、小松さんのショートショートは〝なんとなく〟の小説です。あまりいい響きに聞こえないかもしれませんが、そんなことはありません。小松さんはこの〝なんとなく〟の魅力と豊穣さを最大限に引き出す能力のある作家です。小松さんの作品を読んで村上春樹さんを想起される方も多いと思いますが、不肖・石川は〝なんとなく小説〟の魅力と豊穣さにおいては小松さんの方が先鋭だと感じます。
『四回戦ボクサーの失敗』には大学時代、ボクシングに熱中した小松さんの体験が活かされています。また最後の『距離という名のロマン』は『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』の連載を貫く意味を持つ連作かもしれません。「向こう側。/彼はとても遠いところにいた」で『距離という名のロマン』は終わるのですが、小松さんの歩みも始まったばかりです。可能な限り遠いところまで筆を進めなければなりません。