露津まりいさんの新連載サスペンス小説『香獣』(第11回)をアップしましたぁ。今回は主人公の芙蓉子が、ターゲットである桑林の妻・美礼に接近するの巻です。小説にはいろいろな書き方がありますが、基本的には俗世を理解してないと長く書き続けてゆくことのできないジャンルであります。芙蓉子のボスの糟谷は、高級フィットネスクラブ入会に際しては身元確認が厳しいのでは、という芙蓉子の質問に、「ふん。このご時世に、そんな気取ったことを言ってたら、どこもやっていけん」と答えます。こういふディテールが小説では案外重要なんですね。
それは桑林の妻・美礼を描く際も同様で、飲み会の後、美礼はタクシーで芙蓉子を自宅まで送ってくれるのですが、「「どこなの。どのマンション?」/育ちのよさからくる無遠慮で、美礼は車のウィンドウから頭を突き出して見た。/糟谷が多少の無理をしてでも、芙蓉子をここに住まわせている理由が、今日ほどわかったことはなかった」とあります。こういう箇所にもリアリティがありますね。小説ではプロットが重要ですが、それを支えているのは細かなリアリティある小物たちだと言うことができます。
要するに小説の舞台となる世界を、どのくらい作家が具体的に把握しているのかが、ディテールに現れるんですね。ですから十分に下準備して書き始めると、小説家はほとんど資料を参照しません。もちろん具体的な物の名前などを忘れてしまうこともあるのですが、そういう場合はテキト~に作ってしまえば良い。十分に世界観ができあがっていれば、今度は逆に、物の名前などに読者は注意を払わなくなるわけです(爆)。時代小説ではしょっちゅうそういうことが起こっています。考証的には合わなくても、時代特有の世界観が表現されていればそれで十分なのでありますぅ。
■ 露津まりい 連載サスペンス小説『香獣』(第11回) pdf版 ■
■ 露津まりい 連載サスペンス小説『香獣』(第11回) テキスト版 ■