小松剛生さんの連載ショートショート小説『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『第03回 消し忘れたU/ポニーさんのひづめ/ホウレンソウ311』をアップしましたぁ。
ショートショート小説の書き方といふか、アプローチ方法も様々です。小咄のように、一作ごとにちょっと驚きのあるオチを付けてゆく方法があります。星新一さんの作品が典型的ですね。ただ10作くらいでネタ切れになってしまふようではいけません。また長く書き続けるためにはオチの質も問われます。星さんの作品は所得倍増と技術革新によって、多くの人々が明るい未来を夢見ていた高度経済成長期に、ちょっとした冷や水を浴びせかける質のものでした。そういった時代に食い込むテーマを作家が持っていなければ、読者は獲得できないわけです。
ポニーさんとアタシは二人だけでテーブルの上のほうじ茶を一緒にすすっていた。
なんでそんな事になったのか、は覚えていない。(中略)
わかっているのはひとつ。
台風にしろ、空腹にしろ、それらはすでに過ぎ去った後であり、今の状況はすでに「その後」のことだということだった。
二人は台風の、もしくは空腹の延長線上にいた。
小松さんのショートショートの書き方は、典型的なアトモスフィア小説のものでしょうね。なにかに関する雰囲気を濃厚に発散している作品であり、文体の力で成立している小説です。このアトモスフィアの本質は、「「その後」のことだということだった」とあるように、事件あるいは出来事の後の空虚といふことになるかもしれません。もちろんそれは十分現代的な小説主題になり得ます。
『僕が詩人になれない108の理由・・・』はもちろん小説タイトルであり、小松さんが108という人間の煩悩の数だけこの連作をお書きになるのかどうかは不肖・石川にもわかりません。ただこの連作は、小松さんといふ作家にとっての〝愉楽の作品〟になるのではなひかと思います。愉楽の後にさらに大きな快楽が来るのか、その逆になるのかも石川にはわかりませんが、いずれにせよこの作家の行く末は楽しみでありますぅ。