萩野篤人 文芸誌批評 萩野篤人 文芸誌批評 No.011 グレゴリー・ケズナジャット「トラジェクトリー」(文學界2025年6月号)、連載小説『春の墓標』(第16回)、連載評論『モーツァルトの〈声〉、裏声で応えた小林秀雄』(第05回)をアップしましたぁ。石川、ちょっとボーッとしておりまして編集後記が遅れてしまひました。すいません。時々こういふことがあります。まったく自慢してるわけぢゃないですが、わたくし、もう3千回以上編集後記を書いております。たまーにナマケモノになる。勘弁してくらはい。
小説『春の墓標』はいよいよクライマックスです。長寿社会では人間、ある年齢を超えるとまず病気で亡くなることがない。現代の医療がギリギリまで人を延命させる。認知症で物凄く周囲の人の手を煩わせ迷惑をかけていても衰える時は早い。ピンピンしていた人でも半年くらいでスーッと体力・気力が衰えてゆく。一ヶ月くらいという方もいます。
くどいようだが、あんたって存在を憎んでいるからって、生きることまで邪魔するつもりはないんだ。いまからだって食事の量を減らしたり薬を抜いたり、すこしずつ弱らせる手だってなくはないさ。でもそんなことはしねえ。あんたみたいなクソ野郎でも生きる権利くらいあるからな。親をクソ呼ばわりする子もまたクソ野郎、フンケイの交わりとはよく言ったものさ。もっとも〝糞繋の交わり〟、クソつながりってことだがな。それとも何かい、あんたにゃなにか存念でもあるってのかい。この前も言ったがな、まだやり残したことが、朽ちかけのあんたのどこかに残ってるせいで成仏できないってなら、かしこまって聞くよ。え何だって。――いやナニ、言っただろ。どこまでオレに従いてこれるかと。お前もともと出来の悪いヤツだったからな。性根を入れ直すには少々遅過ぎたなァ。なーるほど。いいだろう。だがな、手遅れだってぇならもうお互い無用ってわけだ。んならとっとと逝きやがれ。
萩野篤人『春の墓標』
主人公がこう独白したあと、お父さんは逝きます。素晴らしい記述です。これぞ小説です。「どこまでオレに従いてこれるか」禅問答のようなという人間存在の謎に主人公は耐え言葉にならない無尽蔵の体験的認識を得た。頑張りました。ちょっと泣けてくる。
■萩野篤人 文芸誌批評 萩野篤人 文芸誌批評 No.011 グレゴリー・ケズナジャット「トラジェクトリー」(文學界2025年6月号)■
■萩野篤人 連載評論『モーツァルトの〈声〉、裏声で応えた小林秀雄』(第05回)縦書版■
■萩野篤人 連載評論『モーツァルトの〈声〉、裏声で応えた小林秀雄』(第05回)横書版■
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