ラモーナ・ツァラヌさんの連載エセー『交差する物語』『No.023 松浦(中)』をアップしましたぁ。ラモーナさんの、世阿弥作『松浦之能』研究のための九州旅行第2弾です。佐賀県唐津市にある鏡神社を訪ねておられます。神功皇后、藤原広嗣が祭神であるといふことからわかるように古い歴史を持つ神社です。創建は応神天皇の御代(西暦3世紀)と言われます。神功皇后はその実在は不確かですが、新羅を攻め、高句麗、百済にも朝貢させた三韓征伐で有名です。恐らくそれに近い史実があったのでせうね。

 

『松浦之能』で描かれた大伴狭手彦と松浦佐用姫の物語は、西暦6世紀半ばのお話しですが、唐津地方は古代から大陸との交流が盛んでした。神功皇后が三韓征伐の際、鏡山山頂に戦勝を祈願して鏡を納めたという社伝があるので、『松浦之能』に登場する鏡もこの伝承の影響を受けているのでせう。古代において鏡はとても貴重でした。日本人好みの国産の鏡が盛んに作られるようになるのは平安時代末頃からですが、すべて円鏡です。手で持つための柄がついた柄鏡(えきょう)が登場するのは室町後期以降です。

 

ラモーナさんは、『世阿弥時代の芸人は、公演のためにしょっちゅう地方へ出かけていたので、同時代の人々よりも旅をする機会が多かった。しかし新しい演目で遠く離れた名所を舞台にする場合、歌枕名寄などを参考にするのが普通だった。・・・誰もが歌に詠まれた名所を身近に感じていたが、本当にそこを訪れた人は少なかった。地理的には不正確でも、言葉の響きさえよければ離れた場所の風景を十分想像できた。世阿弥のような能の作者はそれをよく承知しており、歌枕の機能を自由自在に能の中で生かした。また観客たちも、それによって心の中で旅をすることができた』と書いておられます。

 

世阿弥は『伊勢物語』や『源氏物語』、『平家物語』の内容にかなり忠実な能を作っています。それは必然的に、様々な伝承をまとめあげて一つの総合芸術に昇華する効果を伴いました。室町時代初期に現れた世阿弥の能によって、日本の古代的伝承(心性)が一つの芸術様式にまで高められたわけです。その重層化する歴史と精神の襞を明らかにするのは大変な作業です。ラモーナさんの旅は後半に続くのでしたぁ。

 

 

ラモーナ・ツァラヌ 連載エセー 『交差する物語』『No.023 松浦(中)』 ■