川﨑佳哉さんの 『映画金魚』 『 No.009 俳優たちの理由なき輝きに向けて―三宅唱『Playback』 』 をアップしましたぁ。2012 年公開作品ですが、現在オーディトリウム渋谷で公開一周年記念として再上映中の三宅唱監督の映画 『Playback』 を取り上げておられます。三宅監督は 1984 年生まれですから、まだ 29 歳の気鋭の映画監督です。長篇は 2010 年に 『やくたたず』 を撮っておられるので、『Playback』 は長篇第二作です。
映画の冒頭の方で、売れない俳優の主人公に映画プロデューサーが 『選択と結果、その積み重ねとしての今だろ』 と言う場面があり、この言葉が 『Playback』 の表向きのテーマになっているようです。過去の選択の積み重ねとして今があるのはまったくその通りです。自分でも気がつかないうちに選択が為され、たいていの人間が不甲斐ないと感じている現在がある。しかし 『Playback』 の本当の主題は、この誰にとっても否定しようのないセオリーを揺さぶることにあるようです。
過去の集積としての現在は覆せませんが、過去を探っても決定的な選択などどこにもない。過去だけでなく今現在も同じです。それを川﨑さんは 『私たちはここに 「結果」 と結びつく特権的な 「選択」 がないことを知っているが、むしろこうした特権性の根底的な不在においてこそ、この後半部分のすべての時間が同等の価値をもつもの、すなわち等しくかけがえのないものとして映し出されることが可能となっているのだ』 と評しておられます。
映画後半の主人公がスケボーで亀裂の走った道路を走るシーンは優れた映像表現だと思います。選択 (過去) と結果 (現在) の因果律は観念です。しかし人間はそれほど観念的存在ではない。自分でもよくわからない亀裂 (深淵) のそばを軽々と通り過ぎてゆく。人は映画で、言葉では説明できないこのような映像を見たいのであります。
『映画金魚』 では、玉田健太さんが濱口竜介監督作品 『何食わぬ顔』 を取り上げておられましたが、日本映画のレベルは高いですねぇ。もちろんどこの世界も同じで、大資本が大宣伝するコマーシャル作品はどうしても似たような顔つきになってしまいます。しかし三宅監督や濱口監督のような優れた才能を輩出できれば日本映画はだいじょうぶです。世の中一筋縄ではいかず、いろいろありますが、作家ならやっぱ作りたい作品を作るのが一番であります。
■ 川﨑佳哉 『映画金魚』 『 No.009 俳優たちの理由なき輝きに向けて―三宅唱『Playback』 』 ■