星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第08回)をアップしましたぁ。第二帖「帚木」の続きです。「雨夜の品定め」ですね。身分の低い左馬頭が熱弁をふるっています。もちろん女性談義です。話はあっちに行ったりこっちに来たりします。
つまるところ、繰り返すようですが、こう言うほかはありますまい。家柄や器量にこだわりすぎてはならない、品良くおとなしいのを択んで、これぞまたとなき御息所(みやすどころ)と思い定めることです。たまさかそれがやんごとなき生まれで、優しい気性に恵まれていたのならば目出度(めでたし)、つまらぬけちをつけようなどとはなさらぬことです。況してや、それが善心の清浄なる御方なれば、麗(うら)らかで長閑(のどか)な人柄ばかり目につくようになりましょうとも。
と結論めいたことを言いながら、なお話を続けてゆく。「雨夜の品定め」は雨夜の長話であり、無駄話でもあります。で、それを聞いている光源氏はまだ十七歲。耳学問の女性談義でもあります。ただこれを書いたのが女性作家・紫式部であることを忘れてはいけません。理想の女など存在しないことを一番よく知っているのは作者です。そして主人公の光源氏は美点と欠点を秤にかけて女性たちを選んでゆく。星さんの翻訳は相変わらず丁寧です。
■星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第08回)縦書版■
■星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第08回)横書版■
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