divaについては前回、アルバム『よしなしうた』について、「ポップ・ソング(のフォーマット)」という視点から評した。その考えは、本アルバム『静かな犬』についても変わらない。いわゆるポップ・ソングのイメージから堂々とはみ出した楽曲が本作にも多く詰まっている。
それを踏まえたうえで、今回は別の地平からdivaの音楽に近付いてみたい。
前回も感じたことではあったが、今回、より鮮やかに意識したポイントは「緊張感」。
個人的な感覚だが、音色が少ない音楽に触れると緊張する。ピアノやギターの弾き語りや、サックスやトランペットの無伴奏ソロ、またはアカペラ独唱でもいい。音色の少なさから感じる「脆さ」のせいかもしれないし、次の展開が予測しづらい「不安」のせいかもしれない。
本作に収録された多くの楽曲も、その両方を感じさせるが、それよりも大きな理由はやはり言葉。
8曲目「しあわせ」以外の歌詞(詩)を記した詩人・谷川俊太郎の存在は大きい。誤解を恐れず言うならば、鋭利な言葉と向き合うのは疲れる。加えて、歌声/ヴォーカル・トラックのバランスもある。本作も歌声がよく届く。
ちなみに、アルバムの最後に置かれた「しあわせ」の歌詞(詩)は高田敏子の作品。三十歳を越えてから詩作を始め、「主婦詩人」と呼ばれた彼女の言葉の手触りは、当然ながら谷川作品と異なる。そこもまた興味深い。
私自身、前回『よしなしうた』を聴いたことで「聴き方」が掴めたからだろうか、情景が浮かびづらい楽曲はあまりなかった。その分「緊張」を感じた、なんて結論は少々出来すぎているが真実だ。そして、こんな「緊張」は他所ではあまり味わえないということも、きっと真実。
アルバムを通して、最も感情的に響くのは2曲目の「あのひとが来て」。後半部のボリュームが上がっていく瞬間は背筋が伸びる。
このタイプの「緊張」の対義語はグルーヴ、肉体性だ。ざっくり言えば「ノリ」。
作中、最もノリを感じるのは4曲目「猫を見る」。既聴感のあるジャズライクなトラック、そして猫の鳴き声をなぞるなど明らかに他の曲よりもラフな歌声。8曲中4曲目、という配置も含め、本作中重要な楽曲と感じた。
逆説的にはなるが、比較的スピーディーで溌剌とした6曲目「イソップさん」に「ノリ」より「緊張」を感じるところが、本作の、そして現在のdivaのインパクトかもしれない。
寅間心閑
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