一.フランク・シナトラ
先日、友人の提案で競艇場へ。「ギャンブルの墓場」なんて物騒なニックネームの競艇だが、目的は「賭けましょう」ではなく「呑みましょう」。なるほどレース場の周りには午前中からウェルカムな店もあって魅力的。そして何より健康的……とはならないか。むしろ逆かも、なんてしおらしく。言葉遣いに気をつけつつ打ち明けるなら、所謂「打つ」には縁が薄い。パチンコもスロットも数十年やっていないし、麻雀も同様。牌、きっと上手く積めないはず。縁の薄さにさしたる理由はない。無論射幸心が乏しいわけではなく、単純にそこへ割く時間がなかっただけ。呑んだりアレしたりって結構時間食うのよねえ。
目的地は西武多摩川線の、その名も「競艇場前」駅。シンプル・イズ・ベストの潔いネーミング。そして初めて行く駅に初めて乗る路線。ただ長らく西武線ユーザーだったので、車両のカラーリングに吃驚。目の前を通過したのは、懐かしいラズベリーレッド&トニーベージュの「赤電」、そして実際に乗ったのは初見の青ヴァージョン。鉄道には普段興味ないけれど予想外にテンションアップ。幸先いいじゃん、と浮ついていた。
駅で落ち合い、まずは散策がてらコンビニでガソリン補給。軽く整えたところでいざレース場へ。入口のすぐ横にはコンビニ、店の前にはテーブル。そう、最悪ここで立ち呑める。場内は予想通りのベテラン勢に、ちらほら若者たち。どことなくのんびりしているのは、平日だからか。特に示し合わせることもなく互いに舟券購入。即ち墓場への第一歩。無料スタンドでレースを眺めたり、場内のレストランで軽く乾杯したり。別に派手な買い方をした訳ではないのに、どことなくフワッとするのは人間の証明。これが射幸心です。母さん、僕のあの帽子、どうしたでしょうね?
その後、場外の食堂「K」へ移動して本格的に乾杯。肴はおでん。確認するまでもなく先客の皆様は勝負中。とはいえ殺伐とすることもなく、店内は心地よくのんびり。ただ壁に据え付けのテレビでレースが始まると空気が変わる。その感覚もまた心地よく。気付けば酒はワンカップ、墓場の入口でほろ酔いに。
ギャンブル好きのミュージシャンといえば、まず浮かぶのはフランク・シナトラ。言わずと知れたエンターテイナー。ニックネームは「ザ・ヴォイス」。凄い呼ばれ方。これだけで偉大さは伝わる。そんな彼の歌声はビング・クロスビー直系のクルーナー・ヴォイス。ざっくりと言えば、低い声で/囁くように。どれほどギャンブルが好きかについては、ラスベガスにカジノホテルを所有していたというエピソードが分かりやすい。ちなみにそのホテル「サンズ」にはマフィアが関わっていて……と、そっち側にも話は広がる。プレスリー、ビートルズ以前からのキャリアなので、アルバム単位ではなくベスト盤で聴く方が多いかも。今回ご紹介するアルバム『スイング・イージー』(‘54)は、片面の収録時間が14分(!)という時代の作品なので全八曲とコンパクトだが、その分密度は濃い。何せ全曲スタンダード、そしてタイトル通りに小気味よくスイングする「ヴォイス」を堪能できる。
【 All of Me / Frank Sinatra 】
二.SHŌGUN
忌々しい物忘れを喧伝するつもりはないが、そういえば少し前に帰省した際、福岡競艇前の立ち呑み「H」を訪れていた。きっかけはテレビのドキュメント。画面越しの雰囲気に惹かれ、あまり時間は取れなかったが足を伸ばすことに。そりゃムードは満点。活気に溢れた広い店内はそれだけで素晴らしい。燗酒を自販機で買い、種類豊富な小鉢を肴にテレビでレースの中継を見る贅沢。でも一番心地よかったのは地元訛り。耳から入って腹に落ち、発する言葉もつられて訛る。ああ、こやん話ばしよったら落ち着かんごとなるねえ。
義務教育期、夏・冬休みは丸々帰省していた。日々楽しいイベントばかりだったが、たとえ予定がなくてもテレビがある。足踏みオルガンが置かれた部屋で、普段見られない再放送番組に齧りついていた。目当ては古めの特撮・アニメ。連続ドラマで印象深いのは沖雅也主演の『俺たちは天使だ!』(’79)。内容もさることながら、芳野藤丸率いるSH?GUNが奏でる主題歌「男達のメロディー」が大好きだった。カントリー・テイストの楽曲に乗った「運が悪けりゃ死ぬだけさ」というフレーズは、物忘れが激しいこの歳だからこそ淀みなく刺さる。
【男達のメロディー/ SHŌGUN】
三.ルース・コープランド
英国女性シンガーソングライター、ルース・コープランドのデビュー盤『セルフ・ポートレート』(’70)を聴いたのは、バックバンドがPファンク勢というだけでなく、パーラメントのデビュー盤『オズミウム』(’70)収録のフォーク、カントリー調の大曲「ザ・サイレント・ボートマン」を取り上げていたから。熱心に解説を読まなかったので、何となく「Pファンクありき」と捉えていたが、実際は彼女がこの曲の作曲者。それだけではない。その『オズミウム』の共同プロデューサーでもあった。驚くと同時に、ちっともファンキーではない己の先入観を反省。
物事、続くときは続くもので、つい数日前に初めて訪れた高円寺の立ち呑み「A」で、店のテレビに映っていたのはボートレース。言うなれば、期せずして墓参り。思わず見入ってしまった。色々便利なご時世、スマホで舟券買えることくらい知ってます。でもねえ、と考えながら千円のセットをオーダー。ドリンク二杯に肴が一品、そして小鉢も付く。ドリンクはビール、一品はトロタク巻きをセレクト。目の前で巻いてもらって更に美味。スマホ使用の件は一旦先送りにして、今は二杯目をどうするかに集中いたしましょう。
そうそう、今回がこの「肴的」形式になって百本目。今後とも身体に障らない程度に精進いたします。
【 The Silent Boatman / Ruth Copeland 】
寅間心閑
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