一.スティッフ・リトル・フィンガーズ
現在、都内は緊急事態宣言下。発出された直後はピンと来ていなかった。じんわりと身に沁みてきたのは、その数日後。早い時間からどこかで一杯、と目論んでいた時にじわじわと来やがった。当然、呑み屋で呑めないことは理解していた。流石にそこはセーフ。ただ間抜けなことに、普通の飲食店なら大丈夫とユルユルな勘違いをかましていた。ねえ旦那、そんなにコロナは甘くないんよ。喫茶店も、牛丼屋も、蕎麦屋もNG。角打ちやっている酒屋も中で呑むのはNG。真っ先に思い付いた言葉は――禁酒法。自分のヒネりの無さ、直球度合いに絶望するが、事態はそれ以上にマズい。そこはかとなくジリジリしている。喉を痛めるほど叫んだり、弦が切れるほど強くギターをかき鳴らしたり、とにかく溜め込んだ力をぶっ放したい感じ。
呑めないじゃないか、なんて嘘を言ったりはしない。酒は売っているので呑兵衛はどうにかなる。大変なのは呑み屋の方だ。もちろん色んなポリシーの店がある。我不関焉、我関せずと商売を続けているタイプもちらほら見る。本当ならその心意気に乗っかるべきかもしれないが、どうもそんな気にはなれない。真面目に休業しているお店の手前、と言えば聞こえも良いが、実はそれも違う。今、酒を呑ませる店は大抵どこも混雑。元々そういう店が苦手だから魅力ゼロなだけ。コロナでなくても、あんなに混んでいる店には入らない。
聴きたいのは暴力的な音楽ではなくて、暴力的にさせてくれる音楽。それは昔から変わらない。で、これがなかなか難しい。確率が高いのは所謂パンク・ロックで、洋/邦は問わず。ピストルズの超有名盤『勝手にしやがれ』(’77)の一曲目「さらばベルリンの陽」のラストで、激しく捲し立てるジョニー・ロットンや、クラッシュの二枚目『動乱(獣を野に放て)』(’79)収録の名曲「トミー・ガン」を彩るトッパー・ヒードンのマシンガン・ドラム。再結成後のラフィン・ノーズの二枚目『IF YOU DON’t MIND PLEASE LAUGH』(’95)のジャキジャキした音質や、あぶらだこの初期音源集、通称『OK盤』(’99)で繰り広げられる、珍妙やユーモアも包含した上で尚激しい楽曲等々。
最近よく聴くのは、北アイルランドのベルファスト出身、スティッフ・リトル・フィンガーズのデビュー盤『インフレーマブル・マテリアル』(’79)。一曲で喉を痛めそうなひしゃげた声に、力強くキレのいいギター。一曲目「サスペクト・ディヴァイス」のイントロで、「可燃物」というタイトルに嘘がないとすぐ分かる。
【 Suspect Device / Stiff Little Fingers 】
二.ロバート・パーマー
とにかく今は外で呑みたくなったら、コンビニやスーパー、もしくは酒屋さんで調達するのが一番健康的。そう考える人は多いらしく、「路上飲み」なんて言葉がよく聞かれるようになった(あまり良い話題ではないけれど)。そしてきっと「歩き飲み」も増えている。先週、仕事帰りに新宿を歩いていると、缶チューハイや缶ビールを持ったサラリーマンと高確率ですれ違った。まあ、そんな自分も片手に缶ビールなんでお互い様。実際に買う機会はやっぱり増えていて、様々な発見や再発見がある。第三のビールなら80円台で買えるし、缶のクラフトビールも悩む程度に揃えている店は多い。個人的にシトラス系の苦味が好みなので、それらしい物は一応試してみる。中にはビールメーカーとコンビニのコラボ商品などもあり、最近のお気に入りは正にそれ。そこまで重くないシトラス系の味わいが丁度いい。これで300円からお釣りが来るなんて。
裏切りは音楽を聴く時の醍醐味のひとつ。期待していなかったのに気付けば愛聴盤、なんて滅多にないけれど、あの歓びは何ものにも代え難い。もちろん普通は期待しているから聴いてみたくなるはずなので、状況的に発生率が低いのは仕方ない。個人的には「冷やかし」で聴いたものがそうなりやすい。例えばサザンオールスターズの二枚目『10ナンバーズ・からっと』(’79)。さてさてお手並み拝見、なんて不埒な心構えだったので、まんまとやられてしまった。最近の「冷やかし」はロバート・パーマーのデビュー盤『スニーキン・サリー・スルー・ジ・アリー』(’74)。バックバンドがミーターズという話は知っていたけれど、歌い手が歌い手だけになあ、なんて思っていたら、まんまとやられちまって。特に1~3曲目のノンストップのメドレーが本当に素晴らしい。腰が動くとは正にこのこと。アルバムとしても、ニューオリンズとニューヨーク、二ヶ所でのセッションの成果を記録した充実の内容。たまには冷やかしてみるのも良いものです。
【 Sailin’ Shoes~ Hey Julia~ Sneakin’ Sally Through The Alley / Robert Palmer 】
三.井上堯之バンド
こっそり開けている呑み屋や、路上呑みの人々を横目に、お気に入りの缶ビールを嗜みながら家路を急ぐ。思うことはひとつ。普段通りに店で酒が呑めたなら、こんな分断は起きなかったはず。すぐにコロナのカタが付くとは思っちゃいないが、好きな店で酒を呑むくらいは許してほしい。何せ時間の使い方がガラッと変わっちまう。その結果起きたことは――テレビドラマ『傷だらけの天使』(’74~’75)全二十六話視聴完了。萩原健一も水谷豊も、それに岸田森も若くて格好いい。そして何より音楽が良い。堪らない。他にも『太陽にほえろ!』(’72~’86)や『寺内貫太郎一家』(’74)など、人気ドラマや映画のサントラを数多く担当した井上堯之バンドの母体は、沢田研二、萩原健一というスター二人を擁したロックバンド、PYG。約半世紀前(!)の時代の空気をたっぷり含んだサウンドは、インストという特性も相俟ってかなりクール。そんな再発見が出来たのも、禁酒法のおかげかなとポジティヴに考えながら、コップ酒をレンジでチン。
【傷だらけの天使 / 井上堯之バンド】
寅間心閑
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