一.モンキー・ハウス
やるのか、やらないのか、ちょっとだけやるのか、少しずつやるのか。ああでもない、こうでもない、と逡巡し放題。そう、GOTO。旅とか飯とか、そりゃ行きたい。でも今は。イヤ、それが商売なんです。ではちょっとだけ……。そんな逡巡を余すことなく、毎日毎日テレビは見せてくれる。「頼りない」なんて言えません。選んだのは誰。いや、ちゃんと選んだ? 投票した?
前半コロナで後半GOTO。そんな一年もあと少し。今年の一文字は「密」。甘くない方のミツは、字面も不粋に見えてくる。さあ、外に出よう。ちゃちゃっと立呑み、な気分じゃない。美味しいものを少しずついただきながら、ちびちび呑んでゆっくり天を仰ぎたい。経堂の小料理屋「H」ならそれが叶う。基本どれも300円ちょっとだった料理と酒は、この度100円ほど値上がり。なるほど、これもコロナのせい。いや、それでも全然お値打ち。刺し盛り、白焼き、と何も考えずに好きな物をオーダー。此方の料理はどれも本当に美味しい。小振りな店内には活気が溢れ、他の席に運ばれる料理を見る度に迷う。あっちがいいかな、イヤこっちかな、意外とそっちかな。こんな逡巡なら大歓迎。
例えば好きなミュージシャンがいる。でも、現在進行形の人ではない。好きなのは三枚目のアルバムまでかもしれないし、もうとっくに解散したり、天に召されているかもしれない。それでも新しい音が聴きたい。海賊盤やYouTubeのレアなライヴ映像も見尽くした。そんな時は検索。教えてGoogle先生。そのミュージシャンの名前に「フォロワー」と付け加えてクリック。これ、映画だとうまくいかなそう。スポーツや絵画ならどうかしらん。
そんな手段で巡り会ったのはモンキー・ハウス。誰のフォロワーかといえば、スティーリー・ダン(以下SD)。これ、とても良い出会いだった。バンドかと思いきや、カナダの音楽家のソロ・プロジェクト。SDの研究書まで出しているというから筋金入り。よく聴いていたのは三枚目『ヘッドクォーターズ』(’12)。似ている、とは少し違う。漠然としていたSDの好きなところがハッキリする感じ。ツボが同じ、がきっと正解。モヤモヤが徐々に晴れる。音楽を聴く、って楽しいなあと思う瞬間。ありがとう、Google先生。ただ一つ難点があるとすれば、候補が数多く出てくること。こっちから聴こうか、あっちから聴こうか、と逡巡してしまう。いや、もちろん大歓迎だけれども。
【 Checkpoint Charlie / Monkey House 】
二.ディアンジェロ
今年初トライしたのは「ひとり焼肉」。コロナは関係ない。手頃に呑めたから。それだけ。おひとり様専門、なんて洒落た店ではなく、チェーン店「A」。昔からちょくちょくお世話になる庶民の味方。四人席に通されて、ドンと七輪が置かれて、タッチパネルでオーダー。普段から安い生ビールがセール中で190円。肴はヤゲン軟骨250円。永遠にコリコリいける。後は無くなったらお代わりするだけ。逡巡知らず。こんな不粋なことをしてもツッコまれないのが、ひとりのメリット。気付けば店内、そんな人が結構いる。
現代R&Bの顔役、ディアンジェロ。勿論デビュー盤『ブラウン・シュガー』(’95)も二枚目『ヴードゥー』(’00)も良かったけれど、14年ぶりに「……&ザ・ヴァンガード」名義でリリースされた三枚目『ブラック・メサイア』(’14)は別格。オール・アナログ録音のバンド・サウンドはモコモコでモクモクでモヤモヤ。第一印象は「不穏」。初期ファンカデリックを聴き始めた時の「不安」と似ている。でもその奥にあるのはスライ的なポップ。本当、クセになる。
ひとり焼肉中に、YouTubeでスタジオライヴを見た。無論無音。呑んでいる時にイヤホンは気持ち悪い。パーカーのフードを被り、ギターを弾く彼のバックには男女混合のコーラスメンバー。シャツには「BLACK LIVES MATTER」「I CAN’T BREATHE」の文字。映像は今年のもの、ではなく五年前のもの。欲しかったのは話し合う機会、と彼は歌っている。
【 The Charade / D’Angelo & The Vanguard 】
三.ザ・ロッカーズ
酒呑みには受難の一年だったよな、と嬉しそうに呑んでいる諸先輩方。きっと明日もこうして振り返るはず。朝から遠方で用事を済ませた帰り、池袋で降りちまった。いや、降りたかった。立呑み「S」に、立呑み「D」に、角打ち「L」に寄って呑みたかった。理由は簡単。とても疲れていたから。それだけ。
よく「L」のテーブルの中心には、誰かが持ってきた肴が置いてあるけれど今日は見当たらない。これもコロナのせい、かしらん。普段どおり、三軒回って一時間弱の短距離ハシゴ。今年を振り返るのは店を出てからでいい。酔い醒ましにダラダラ歩きながらでいい。
振り返るといってもタカが知れている。だってついこの間、大晦日だったと思ってるんだから。反省も目標も繰り越しちまって構わない――。そんな怠けた頭にふと閃いた。そうだ、今年一番聴いた曲でも調べてみよう。今は色々便利ですな。ありがとう、アップル先生。予想はアレだけど自信はない。やっぱりあっちかも、イヤこっちかも、と酔いの醒めない頭で逡巡。その結果は……大正解。アレでした。陣内孝則率いるザ・ロッカーズの38年ぶり(!)の新作『ロックン・ロール』(’19)、その一曲目「糸島の太陽(カリフォルニア・サン)」が断トツ一位。ラモーンズのナンバーに日本語詞を付けたカヴァーだが、そのラモーンズ版も元はといえばガレージ・バンド、リビエラズのカヴァー。計測数は六十回。あれ、もっと聴いてるかと思った。
二分足らずのこの曲、何といってもヴォーカルが素晴らしい。タイトルでも分かるように歌詞は博多弁。唐津生まれの私には懐かしくも背筋が伸びる。来年のことなんて分からない。本当、「どげんかなるけん よかろもん」。皆様もいつも以上にお体には気をつけて。
【 糸島の太陽 / ザ・ロッカーズ 】
寅間心閑
■ モンキー・ハウスのCD ■
■ ディアンジェロのCD ■
■ ザ・ロッカーズのCD ■
■ 金魚屋の本 ■