一.欅坂46
過剰な予想のおかげで救われることがある。深夜のカラオケ屋でバイトをしていた際、最悪の事態を色々と予想していたので、客からマイクで頭を殴られてもそんなに驚かなかった。日々、着々と加齢を重ねているはずなのに自覚が足りないのも、元々過剰な予想をしていたからだと思う。これくらいの年齢になれば、「経済的にちょっと余裕がある/とても退屈な人生」を過ごしていると思っていた。まさか真逆とは……!
その味を伝承した店、というだけで何となく信頼してしまう。信仰、の二文字がちらつかなくもないが、実際に旨い店が多いから仕方ない。そう、焼きとんの話。野方の「A」は「東京やきとん・西の横綱」なんて言われたりもする信頼のブランド/ルーツ。此方の御主人が修業したという店、謂わばルーツオブルーツが埼玉・蕨にあるけれど、それはまた別の機会に。
先日訪れたのはその野方の本店、ではなく徒歩数分の距離にある系列店「D」。リニューアル後、初。此方は本店に較べて少々高め。100円の串が130円、みたいな感じ。ねえ、意外と結構、なかなかでしょう。その代わり、此方はゆったりとできる。本店のラフな感じも好みだけど、最近は此方に訪れる方が多い。理由? そりゃあ加齢のせいでしょうなあ、と他人事みたいに呟いて串を二、三本追加します。
先日、解散というか改名というかリニューアルした欅坂46は、所謂「坂道グループ」の中では最も分かりやすくドラマティックな存在。楽曲以外の部分で取沙汰される噂話や真実も含め、「語りたくなる」要素が沢山。文系ロッカーには堪らない。勿論それも魅力のひとつだが、個人的に熱く語る気はナシ。歌詞に込められたものをメッセージと認識し、その意味について可能性を探る……なんてことはいたしません。理由? そりゃあアレのせいでしょうなあ。活動休止五日前に発売されたベストアルバム『永遠より長い一瞬~あの頃、確かに存在した私たち~』(’20)にはシングル曲が網羅されている。鮮烈なデビュー曲「サイレントマジョリティー」(’16)や、軽やかで切ない「二人セゾン」(’16)も素晴らしいが、リピート率が高いのは「黒い羊」(’19)。「僕だけがいなくなればいいんだ」と歌ったメンバーが本当に脱退してしまう、というストーリーも文系ロッカーには堪らない。
【黒い羊/ 欅坂46】
二.アズテック・カメラ
ペイル・ファウンテンズ、オレンジ・ジュース、フレンズ・アゲイン等々、八十年代前半に盛り上がったネオ・アコースティック、所謂「ネオアコ」勢の作品は、若い頃、あまり魅力的ではなかった。きっと音色のせいだと思う。やっぱりギターの音は心をかき乱すくらい歪んでいなければ、という健全な思想/耳を持っていた証拠。ところが最近聴き直すと、少し印象が違う。ええ、きっと加齢のせいでございます。あの界隈の音楽が心をかき乱すのは、ギターの音ではなく熱く青臭い歌声だということに当時は気付けなかった。最近よく聴いているのはアズテック・カメラのデビュー盤『ハイ・ランド、ハード・レイン』(’83)。豊かな音楽的素養をベースに作り上げられた緻密なサウンドの上に、当時まだ十代だったロディ・フレイムの声が放り出されるアンバランスさは何度聴いても魅力的。妙な爽快感がある。
酒場探訪系の番組に取り上げられるような店にお邪魔することは少ない。定期的に、となると尚更だ。思い付くのは下北沢の居酒屋「R」くらい。ぐっと落ち着いた雰囲気の此方に初めて訪れたのは十代、と背伸びしたいがきっと二十代。ワイングラスで供されるこだわりの日本酒に、毎度迷ってしまう豊富な肴。勿論おいそれと来られる感じではなかった。さあ行くぞ、と意気込んでしまうのですね。それがここ最近微かに変わってきた。フラッと入れるというか、あまり気負わないというか。そうそう、アレのせいだと思われます。先日伺った時もそう。ハラミ葱塩焼を肴にチビチビと。ぼんやりと考えごとをするには、ちょいと贅沢すぎたかも。
【 The Boy Wonders / Aztec Camera 】
三.バド・パウエル
そんな素敵なシチュエーションで考えごとをしても、なかなか上手くはまとまらない。そりゃそうだよなあ、と苦笑しながらフラフラ歩くうち更に一軒思い浮かぶ。下北沢の外れにあるバー「T」。此方も初めて訪れてからずいぶん経つ。当時はかなり深い時間に、誰かから連れて来てもらう、というパターン。だらしなく酔ってギターを弾いたりした、ツギハギだらけの記憶も幾つかある。でも最近は早めの時間にちょっとだけ。気さくなマスターとポツポツ話をしながら、ボンベイのロックを二杯。呑み過ぎないからこれがいい。じゃあまた近いうち、と店を出て思い出すのはまとまっていない考えごと。忘れっぽいのか、場に流されやすいのか、意志が弱いのか。まあ、それもこれも加齢のせい。
バーの音楽といえばジャズ。マル・ウォルドロンの「レフト・アローン」(’59)か、バド・パウエルの「クレオパトラの夢」(’59)……なんてチョイスは流石にアナログすぎるかも。特に後者は村上龍がホストを務めていたテレビ番組「Ryu’s Bar 気ままにいい夜」(’87~’91)のテーマ曲だった。単純すぎる想像力は、完璧にアレのせい。間違いない。テーマの旋律もアドリブも、とにかく分かりやすく飲み込みやすい。日本人が好き、という話も納得の一曲。
この曲から始まるアルバム『ザ・シーン・チェンジス』(’59)のジャケットにはまだ小さいバドの息子が写っている。そういえば私の父親もこのアルバムを持っていた。今夜は家に帰ってから、もう一杯だけ呑もう。考えごとはまた明日。
【 Cleopatra’s Dream / Bud Powell 】
寅間心閑
■ 欅坂46のCD ■
■ アズテック・カメラのCD ■
■ バド・パウエルのCD ■
■ 金魚屋の本 ■