一.ザ・コレクターズ
モッズについて。縮めなければ「モダニスト(=現代人)」。一般的なイメージは1960年代英国のユース・カルチャー。三つ釦のスーツを着て/ヴェスパに乗って/クラブで踊って/アンフェタミンをキメて……だろうか。学生時代、そんな諸々を伝えてくれたバンドはコレクターズ。フロントマンの加藤ひさしがテキスト/キッカケだったキッズは相当数いるはず。私はパンクスなのでモッズの「外観=ファッション」に対しては傍観者。それより彼、彼女等が好む音楽に興味津々だった。即ち「どんな曲で踊っているのか」。探索は60年代R&Bやオルガン・ジャズといったド定番から始めたが、シングル盤を重要視する背景もあり最初はスローペース。そのうち現在進行形のムーブメントだったレコードレーベル「アシッド・ジャズ」との親和性/共通性が語られ始め、ようやくペースアップできた。突破口は「レア・グルーヴ」。つまり発売当初は低評価だったダンサブルなファンクやソウル、R&B等の黒人音楽。このジャンルは元々好きだったので、その嗜好/興味をコンパスに探索ペースが安定した。ざっくり補足すると、「アシッド・ジャズ」はレーベル名であると同時に音楽のジャンル名でもあり、そのベースとなったのは英国のクラブで流行っていた「レア・グルーヴ」。そのうち踊るだけでは飽き足らずプレイし始めた、というわけ。もちろんクラブには踊る人と踊らせる人=DJがいて、「アシッド・ジャズ」という名前のレーベルを設立したのは主要DJ二名、ジャイルス・ピーターソンとエディ・ピラー……と、数行カタカナ多めでお届けしたのはアイテムの多さを感じてほしかったから。実はパンク・カルチャーも形成/成形する為のアイテムは多く、その辺り親近感があった。似てるよなあって感じ。そして精神論に帰結したがる辺りも似ている。「モッズはクール。誰よりも新しく」的なヤツ。パンク畑で有名なのは、ジョー・ストラマーの「パンク・イズ・アティチュード、ノット・スタイル(パンクとはスタイルではなく姿勢)」。もちろん分かる。痛いほど分かる。でもスタイルは大事。スタイルが伴わない正論は弱い。ニワトリor卵の理論でいけば、スタイルが先なんだし。少なくともこの界隈ではね。
前述の加藤ひさしが矢沢永吉の作詞を担当し始めた時は驚いた。永ちゃんといえばキャロル、キャロルといえば(モッズとは折り合いが悪い)ロッカーズ、さもなくばテッズ。「涙のテディ・ボーイ」(’74)なんて曲もあるし……。無論、そんなスタイル論が吹っ飛んでしまうほど嬉しかったけれど。何せ初仕事の『LOTTA GOOD TIME』(’99)は全曲担当(!)。これは頼んだ方も凄い。当然バンド、コレクターズとしても順調にリリースを重ねている。お聴きいただく曲は、モッズ・ナンバーを日本語詞で歌うカバーアルバム『BIFF BANG POW!』(’05)から選ぶはずだったが、つい数日前に聴いた最新アルバム『ハートのキングは口髭がない』(’24)のリード・トラックが素晴らしかったのでそちらを是非。スタイルを携えた正論は響きやすい。
先日久々にいわゆる町中華にて一杯。創業六十余年、なので外観からギトッとした感じかと思いきや、数年前のリニューアルによりとても綺麗。こちら初台の「E」は、席と席の間隔/店員さんのホスピタリティー/小ぎれいさ、抜群。当然それが成り立つということは味も抜群。「一番人気」の文字に偽りナシの担々麺、玉子焼きが乗った玉子チャーハン、そして看板商品の餃子。どれも見た目スマートだが、味付けしっかりでビールにぴったり。大満足でお会計すると、ちゃんと懐に優しい。なるほど、さすが町中華スタイル。
【スティーヴン・キングは殺人鬼じゃない / ザ・コレクターズ】
二.シンプリー・レッド
先日、準備していた飲酒計画が不意の休店で急遽おじゃん。哀しい気分を慰めてくれるのは早朝六時から飲める定食屋しかない、と平和島「S」へ。ちなみに時刻は十時過ぎ。先客は良い頃合いに酔っている。此方のマスターは気さくな男前。お通しのミニ奴で大瓶をちびちび飲みつつ、程なく届いた肴はウインナー炒め。450円。添えられているのはキャベツだけではない。ドンと白いマヨネーズ。別皿にはこれまたケチャップとマスタードが赤&黄でドン×2。嬉しいサービスに慰められるどころか、お店のイメージが上書き変更。
モッズ界隈から探索した音楽は、そのシーンの成立条件上、白人が奏でるソウル――いわゆる「ブルー・アイド・ソウル」の系譜に位置するものが多かった。その単語自体は1950年代から用いられたものなので、音像は当然進化/発展を遂げている。当時よく聴いたのは、数年前に再結成を果たしたマンチェスター出身のシンプリー・レッド、初の全英一位シングル「フェアグラウンド」(’95)。セルジオ・メンデスなど複数からの孫引きサンプリング、というルーツも当時の空気にぴったりのナンバー。今でも効果抜群。
【 Fairground / Simply Red 】
三.井上堯之バンド
当時、日本国内のモダニストたちも「誰よりも新しく」という信条に乗っ取り、新しいダンス・ミュージックを探していて、それは自国のレコードだって例外ではなかった。いわゆる「和モノ」。当時の一大ムーブメント「渋谷系」に「和ジャズ」。なるほど、と唸ったのは今や定番の「邦画サントラ」。中でも元スパイダース、元PYGのギタリスト・井上堯之率いる井上堯之バンド。刑事ドラマの金字塔『太陽にほえろ!』のBGMは、イメージが上書きされるコロンブスの卵的チョイス。
今回、原稿の草案をまとめたのは、最近密かにモダーン度数が高いと気に入っている五反田の立ち飲み「H」。ラフな造りの店内は、昼時だと人も少なく文字通り開放的。考え事をするには理想的なスペース。当然懐にも優しく、今回は98円のキャベツを肴に作業いたしました。次回は是非、遅い時間に伺います。
【アクションM1(『太陽にほえろ!』BGM) / 井上堯之バンド】
寅間心閑
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