金魚屋から『佐藤くん、大好き』を好評発売中の原里実さんの連作短編小説『キウイ』後編です。本源的な孤独が表現されているのがこの若い作家の大きな特徴であり、魅力です。
「先生」
なあ子ちゃんが言った。
「潮崎さんは?」
潮崎さん? と先生は言った。
「あら、やだ、飛ばしちゃってた?」
じゃあひとつずつずれて、問一が潮崎さん、問二が神谷さん、問三が――。
わたしはゆっくりと立ち上がって、黒板に向かっていった。頭のなかがぐるぐる回った。黒板の前で、持ってきたノートに視線を落としてみると、そこにさっきの小人がいた。小人は肩で息をして、両膝の上に両手をついていた。
「伽耶ちゃん、大丈夫?」
いつまでもチョークを持たないわたしの顔を、なあ子ちゃんが隣から心配そうにのぞきこんだ。
「潮崎さん」
先生はぴしゃりと言った。わたしは白いチョークを手にとって、思うままに書いてみた。
気がついたら、ほかのみんなは席に戻っていて、わたしは最後のひとりになっていた。わたしはチョークを置いて、席に戻った。指先に白い、細かい粉がついていた。
(原里実『キウイ』)
学校であれ社会であれ、なぜかコミュニティから阻害されてしまう者、大きな集団からどうしてもはみ出してしまう者が、ある種特権的な魅力を放つのは、小説の一つの醍醐味です。『キウイ』では主人公の女の子と宮守君がそういう存在です。宮守君は車椅子に乗った少年ですが、それは決定的に重要ではない。彼はキウイ鳥を見たという。日本では生息していないはずの鳥です。主人公の女の子には小人が見える。それが二人を結びつける。恋愛感情はない。恋愛以上の共感がなければ原さんの小説の男女は出会わず惹き付けられないのです。
普通の、どこにでもいる少女が主人公であることが多いですが、原さんの小説には家や家族の影が薄いですね。もちろん否定しているわけではない。憎しみや嫌悪などもこれっぽっちもない。だけど家族や血縁といった繋がりを越えた強い関係性を求める一人の孤独な人間が登場する。それが鮮烈に表現されたのが『佐藤くん、大好き』という本です。短編集ですがテーマは非常に強く一冊の本を貫いているのです。テーマ、つまりどうしても表現したい主題のある作家は強いです。
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