岡野隆さんの『詩誌時評・句誌』『No.085 「杉田久女と橋本多佳子~二人が愛した北九州」(月刊俳句界 2017年08月号)』をアップしましたぁ。近代を代表する女性歌人、杉田久女と橋本多佳子の特集を取り上げておられます。二人はともに虚子「ホトトギス」門で、若い頃、久女が多佳子の俳句の手ほどきをする形で交わりました。久女は生涯虚子門、というより、虚子のちょっとした追っかけで、それを嫌った虚子が久女を疎んじたことはよく知られています。ただ虚子は別に久女を毛嫌いしていたわけではないようです。
岡野さんは虚子と久女の関係について、『再三にわたって久女は句集序文を書いてくれるよう頼んだが、虚子は応じなかった。序文を書けば書いたで、その後に起こる波乱を危惧したのだろう。ただ『久女句集』は彼女の死後に長女の石昌子によって刊行されたが、虚子はその序文を引き受けた。久女は虚子の冷淡を恨みに思っただろうが、周囲の人間は久女と虚子の関係を冷静に見つめていたということだ。虚子は序文で久女俳句を高く評価している。こういった形でしか友愛を示せない文学者はいる』と批評しておられます。
蝶追うて春山深く迷ひけり
花衣ぬぐやまつはる紐いろいろ
われにつきゐしサタン離れぬ曼珠沙華
夏草に愛慕濃く踏む道ありぬ
朝顔や濁り初めたる市の空
ぬかづけばわれも善女や仏生会
紫の雲の上なる手毬唄
張りとほす女の意地や藍ゆたか
蟬涼し汝の殻をぬぎしより
龍胆も鯨も掴むわが双手
杉田久女
すぐれた女流俳人ですね。男性俳人は俳句制度、つまり俳句権力・権威に敏感かつ従順で、基本花鳥風月中心の句を詠みがちですが、女性俳人の方が無理なく俳句で自我意識を表現し得ているように思います。
多佳子について岡野さんは、『多佳子の資質は「星空へ店より林檎あふれをり」「いなびかり北よりすれば北を見る」といった、お嬢さんらしい素直な句に最もよく表現されている。表現が中性的な普遍を目指している。その意味で久女俳句とは大きく質が異なる。(中略)同郷で同じ時期を過ごした女同士だから、深く理解し合っていたはずだというのは男が抱く一種の性差別的幻想に過ぎない。現代の女性なら「んなわけねーだろ。自分の胸に手を当ててよーく考えてみろよ」と言うでしょうね』と批評しておられます。多佳子は誓子門になりますが、面白いことに久女よりも本質的に虚子の愛弟子だったと思います。
■ 岡野隆 詩誌時評『句誌』『No.085 「杉田久女と橋本多佳子~二人が愛した北九州」(月刊俳句界 2017年08月号)』 ■
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