大野ロベルトさんの連載映画評論『七色幻燈』『第二十二回 滴る言葉』をアップしましたぁ。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』を取り上げておられます。大野さんによると、『世界十二カ国の上空に地球外生命体のものと思われる飛行物体が出現し、そのまま停留した。(中略)だが宇宙人が発する奇妙な音声はどう分析しても意味をなさない。(中略)(主人公)ルイーズは、典型的な蛸型の宇宙人が触手から吹き出す、まるで墨のような液体が、彼らの真意を伝えるための文字であることに気づく』という内容のようです。
大野さんはまた『この映画で重要な役割を担うのが中国政府であるという事実である。(中略)それは、異星人の文字がまさに(蛸の)墨によって書かれている、という事情によるのである。中国文化の代名詞である漢字もまた視覚的な文字であり、かつ文字を構成する組織の追加や組み換えによって、理論上は無限に意味を生成することができる』と書いておられます。象形文字に表象される、神秘の言語を持つ宇宙人との対話がテーマの映画のようです。ただまぁ、このテの目の付け所をエンタメ作品にまとめるのは難しいでしょうねぇ。皮相なエキゾチシズムに陥る場合がほとんどです。
ヨーロッパ言語学はソシュールで、一応の分析的な底に達したと言えます。ただそれで言語の構造がすべて解明されたわけではありません。言語が関係性によって生成されていることが明らかになっただけです。またソシュール言語学は基本的にヨーロッパの表音言語を対象にしています。ある程度は東アジア漢字文化圏に応用できますが、異質な点も多い。
人類が生み出した文字が象形文字から出発しているのは間違いありません。エジプトから中東での古代国家・民族の激しい興亡によって抽象的表音言語が生み出された。ある民族がある民族を征服すると、征服した民族の富だけでなく文化をも奪い吸収するわけですが、その繰り返しの中で象形文字が表音化され、抽象的なアルファベットなどが成立したわけです。
つまり漢字文化は今に至るまで、表音言語文化よりも古い歴史を持続しています。文字の形そのものが伝達機能を持っているわけですが、漢字文化圏には文字信仰とでも呼ぶべき宗教的心性が残っています。それに気づいた最初のヨーロッパ人はヴィクトル・セガレンでしょうね。セガレンの著作を読むと、彼が中国文化の本質を的確に理解していたことがわかる。
漢字文化圏の言語は、恐らくソシュール言語学ではその全体性を捉えきれない。心理学をも援用する必要があります。もちろん表音・表意文字に通底する基盤があるわけですが、それは言語学よりもユングの『赤の書』などの方が示唆に富むヒントを与えてくれると思います。そこから神秘主義に赴くのは簡単ですが、論理的にその構造を説明するのは至難の業です。
■ 大野ロベルト 連載映画評論 『七色幻燈』『第二十二回 滴る言葉』 ■
■ 第05回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第05回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■