一.ジミー・スミス
実家の近くに弁当屋がオープン。全品300円(税込)。基本構成は白飯+揚げ物。父曰く「その値段で味は大丈夫なのかね」。多分ね、と即答した根拠は二つ。まず、単純に揚げたては旨い。そして、還暦オーバーの先輩方は結構揚げ物好きだ。呑み屋で何度も確認済み。
……なんて話していたら欲しくなる。これが揚げ物の魔力/魅力。その前でヒトは無力。無駄な抵抗はやめ、揚げたてを肴に呑みますか。ハシゴをするならメンチは少々ヘビー。コロッケは飽きがち。ならば答えは出たも同然。ハムカツ一択。さあ、巡礼の旅路へ。
目指すはアメ横。魔の……ではなく、美味なるハムカツ三角地帯がある。バミューダならぬハムーダ……、いや、シラフで駄洒落は禁物。大怪我しまっせ。
一軒目は「肉のO」。此方の逸品はお値打ち80円。レストランもあるけど、店頭で立呑み/食いOK。修学旅行生も泥酔オジサンも仲良く横並び。素晴らしい。ただ混んでいるのが玉に瑕。ソースをかけて半分ほど齧ったら、次の店へと移動開始。次は数軒先の立呑み「K」。味が口から消える前にまたハムカツを注文。さすが名物、注文続々。酎ハイを呑みつつ待つこと数分。さあ、来た。此方の逸品は半円型二つ、断面はミルフィーユ。脇にはキャベツと和辛子。ペロっと完食。
最後は向かいの立呑み「T」。これで三角踏破。奥に通されながら注文完了。勿論ハムカツとチューハイ。此方の逸品は円形のままレタスにオン。大口で齧りつく。
しかしまあ、店内には誘惑が多い。壁の短冊、白板に旨そうなメニューが100円台からズラリ。今日はハムカツ、と我慢してチューハイを呑み干す。駆け足で三角地帯を堪能し、ハムーダ・トライアングル(!)を後に。
オルガンの音色が好き。パイプでも、足踏みでも、ハモンドでも。オルガン入ってるから、という理由だけで知らないアルバムに手を出しちゃう。音色はもちろん、それに付随するノイズも愛おしい。時には切ない吐息のように甘く、時には獣の息衝きのように獰猛。
経験上、堪能するならジャズファンクが一番。今ならニュー・マスターサウンズやオン・ザ・スポット・トリオ等、少し前ならジェームス・テイラー・カルテットやコーデュロイ辺り。基本インスト。ソロだけでなく、バックに回ってもオルガンという楽器は面白い。
ルーツを辿ると必ず出くわすプレイヤーがジミー・スミス。彼のプレイはジャズの枠を越え、オルガンの可能性を広げ、その広げた部分は定型に。唸り声も生々しいトリオ編成の『オルガン・グラインダー・スゥイング』(‘65)、総勢十五名のホーンセクションと渡り合う『ザ・キャット』(‘64)、どちらも格好いい。
【Organ Grinder’s Swing/Jimmy Smith】
二.エルヴィス・コステロ&ジ・アトラクションズ
巡礼は続く。三軒行ったのに食い足りない。これがハムカツのヘルシーさ。今日はまだ食べていないタイプがある。厚切りのゴロっとしたヤツ。となると鶯谷。朝から呑める優良店「T」。一駅なので歩いて腹ごなし……、いや待てよ。本日月曜、定休日だ。でも大丈夫。系列が数店ある。即進路転換。いざ雷門一丁目店へ。
入店したら再び例のコンビを注文。チューハイとハムカツ。此方の逸品は薄い衣にぶ厚いハム。脇にはキャベツとマヨネーズ。これが嬉しい。ハムと相性抜群。
オルガンはジャズだけのモノではない。ロックンロールとも相性抜群。代表格はドアーズ(鍵盤でベース)、プログレならエマーソン・レイク&パーマー(鍵盤にナイフ)、ハードロックならディープ・パープル(鍵盤を改造)。みんな個性的。あと忘れちゃいけない、プロコルハルム(鍵盤が二台)。代表曲「青い影」の素晴らしさを、何度となく先輩方から聞かされた。
個人的には初期のエルヴィス・コステロ。盟友アトラクションズを従えたアルバムは、オルガンの面白味が詰まっている。彼の粘着質な声とドラマチックな節回しに、ややチープなオルガンが絡みつく。そのバランスが絶妙。中でも四枚目『ゲット・ハッピー』(’80)。R&Bをベースにした楽曲群をグイグイ引っ張るオルガン。大活躍。一分台の曲も交えて全二十曲、小気味よい流れが最後まで。ちっともダレない、全く飽きない。
【The Imposter / Elvis Costello & The Attractions】
三.ニューエスト・モデル
おっと、忘れてた。オルガンはパンクロックとも融合可能。代表格は真摯な武闘派、ストラングラーズfromイングランド。国内では現在ソウル・フラワー・ユニオンとして活動中のニューエスト・モデル一択。
彼等の初期、自主盤のアルバム『センスレス・チャター・センスレス・フィスツ』と『プリティ・ラジエーション』(共に’88)には、今もなお新鮮なオルガンの音色が渦巻いている。両方に共通するのは、「異常」の域に届くほど高いテンション。本気度が桁違い。諺・格言を彷彿させる歌詞も相俟って、触感はバキバキに硬い。唯一軟らかさを感じさせるのがオルガン。性急なビートと野太い歌声の間を流れるおかげで、バキバキだがギスギスすることはない。
パンパンになってきた腹を抱え、向かうは新橋。迫り来る膨満感。わたしもうぢき駄目になる。ハムカツ巡礼、最後に浮かんだのは創業四十年の老舗「O」。本当に旨い、けど厚切りタイプ。胃の容量的に連チャンは避けたい、ので鶏料理の「S」へ。
着席して注文、の瞬間に迷う。此方には、ハムカツポテトサラダサンド、という魅力的なメニューがある。中味は読んで字の如し、ハムカツがポテサラをサンド。当然旨い。でも今は巡礼の途中。決して自分を甘やかさない。「ハムカツ下さい」「普通ので?」。迷う、耐える、吹っ切る。「はい、普通で」。これぞストイック。
待つこと数分。登場した「普通」の逸品は六枚重ねのミルフィーユ。脇にはキャベツとマヨネーズ。ちょっとつけ、ソースをハムとハムの間に流してから齧りつく。幸せな融合。膨満感を忘れるほど旨い。わたしもう駄目になったのかも、と不安になりつつ巡礼終了。
【Nuclear Race or Human Race / The Newest Model】
寅間心閑
* 『寅間心閑の肴的音楽評』は毎月19日掲載です。
■ ジミー・スミスのアルバム ■
■ エルヴィス・コステロのアルバム ■
■ ニューエスト・モデルのアルバム ■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■