第03回 文学金魚新人賞受賞作家 原里実さんの連作短篇小説『水出先生(上編)』をアップしました。東大ハラ坊の連載短編小説第3弾です。原さんはあっさり〝優秀だね〟と言ってしまえる小説家さんです。少なくとも石川はそう思っています。ただ人文学の世界では優秀さは常に相対的なものです。今優秀でも将来もそうだという保証はありません。漠然とであれ作家は常に10年先のことを考えていなければなりません。なぜ10年か。人間は10年くらいのスパンでしか将来を見通せないからです。70歳で現役バリバリの第一線で活躍している作家にお話を聞いても、たいてい『あと10年欲しい』とおっしゃいます(爆)。作家の活動はその積み重ねです。
今の文学の世界は厳しいです。恐らく将来的にも厳しいでしょうね。今後、戦後の80年代くらいまでのように文学界全体が堅調で、そこそこ本が売れる時代は来ないと思います。売れる作家と売れない作家にはっきり分かれる。今のところ小説界の賞はそれなりに機能しています。優れた作品に賞が授与されるのは当然のことです。でも長い目で見ると、本当に優れた作品だったかどうかはけっこう危うい。しかし賞には賞の授与で作品が話題になって作家が活動しやすくなり、出版社が収益を上げることができるという現世的側面があります。小説界で賞が機能しているというのは、少なくとも賞の現世機能がまだ有効だということです。だけど詩の世界ではとっくの昔に賞の現世的機能が失われている。詩の世界で起こることは必ずと言っていいほど小説界で起きます。現に詩の世界では一般的な自費出版が、特に小説純文学の世界では一般化しつつあります。小説界の賞の現世機能もじょじょに失効してゆくことを覚悟しなければならないと思います。
読者を得ることが作家にとっての唯一の生き延びる道です。世間的に有名な賞をもらっても〝We can be Heroes, just for one day.〟では意味がない。書いて発表して本にして最低限の対価を得て次の本を出し続けるのが、作家にとってミニマルでも一番いいあり方です。そのために作家にとって大切な節を折る必要はありません。自分の表現したい核を守りながら読者を意識して売れる工夫を付加してゆけばいいのです。文学は厳しい時代に入りましたが、文学金魚からデビューした作家さんたちには、できれば〝売れる作家〟のカテゴリーに属していていただきたいと思います。
■ 第05回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第0回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■