谷輪洋一さんの文芸誌時評『No.096 文藝 2016年冬季号』をアップしましたぁ。いがらしみきおさんのエッセイを取り上げておられます。『ぼのぼの』で有名なマンガ家さんです。いがらしさんは『歳とった漫画家の絵は古いから、仕事の依頼はない』と書いておられるようです。谷輪さんはそれを受け、『歳をとるということがこれほど単に肉体的、物理的な事象として捉えられた時代はかつてなかったのではないか。それは書き手単独の個性に加え、現代を象徴してもいる。加齢とは肉体的な衰え、すなわちハンディキャップでしかない、という。そこでの権威付けや経験への敬意といったものは少なくとも無条件ではなくなった。何らかの実質的な理由がないかぎり認められなくなったのだ』と書いておられます。
身も蓋もないことを言えば、谷輪さんが書いておられる通りだと思います。若い優れた才能がどんどん育っているわけではまったくないですが、中堅や一昔前なら大家と呼ばれるような年齢に達した作家たちに、わたしたちが期待することはほぼ無くなったと言えます。名前は知っているし作品も読んだことがあるけど、もうこの作家からは絶対新しいもの、新鮮な発想や感性や表現が生まれて来ないと見切ってしまえる作家が大半を占めるようになってしまったのです。文学の世界が低調だということは、言い換えるとそういうことになる。
ただいがらしみきおさんは別だと思います。谷輪さんは『いがらしみきおは自身の抱える漠とした不安感を文学的なものに還元しようとしてはいない。それも個としての書き手の誠実さといったこともさることながら、時代の要請だろう。読者にはなんら接点のない文学的なる幻想より、肉体のあり様を詳細に観察することは文学に接近する』と書いておられます。また『その創作の本質はあからさまであることだったのだ、と思い至ると、あの『ぼのぼの』が社会的なコードを取り去った〝動物〟だったことがくっきりと思い返されるではないか』と批評しておられます。
いがらしさんの『ぼのぼの』は古びないと思います。そのタイトルのイメージもあって、ほんわかとしたほのぼのファンタジーのようですが、その世界は意外と厳しい。意志を持った孤独な動物たちの世界を描いたマンガであり、それは人間存在の本質でもあります。
■ 谷輪洋一 文芸誌時評『No.096 文藝 2016年冬季号』 ■
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