原作・小原眞紀子、作・露津まりいさんの連載サスペンス小説『お菓子な殺意』(第03回)をアップしました。第2章『塀から落っこちた卵の始末を(前編)』です。まだ出だしですが、サスペンス小説の伏線満載の章です。
ほら、と郁美は膨れっ面でドアの外を指差す。蝶番の隙間から仕方なく窺うと、ピアノの脇に棒立ちになっている早苗に、カオルが何やら盛んに話しかけていた。
「新顔をちやほやするのはカオルの癖だけど。あの娘、恍惚としちゃって。だいたい銀杏色のVカットブラウスに幅広のパンツって、去年の秋の集いのときのカオルの格好じゃない」(中略)
「背格好まで昔のカオルみたいで気持ち悪い。『ルームメイト』って映画みたいだし、」
あのカメラマンは、と彩子は郁美を遮った。
「あらカメラマンなの。あんたの昔からの友達なんでしょ。入院中のカオルの退屈しのぎにって、あんたに話し相手を頼まれたって」
と、そのときベランダから悲鳴が聞こえた。
一瞬の沈黙の後、絨毯を走りまわるスリッパの足音が響いた。
見ると、リビングは空になっていた。
彩子は突然、バッグを取ると、クローゼットを飛び出した。
「彩子」と、郁美の声がした。庭からガラス越しにもう一度、誰かが叫んだ。彩子は玄関でスニーカーを突っかけ、外廊下から夜の通りへと逃げた。
(原作・小原眞紀子、作・露津まりい『お菓子な殺意』)
小原眞紀子さん原作、露津まりいさん作のサスペンス小説は、当たり前のように高いレベルでプロットが立ち、その伏線が複雑に張り巡らされています。これは小説芸術の基本であり、大前提となる技術です。純文学でイメージされる、既存の小説様式を壊す前衛系表現は、本来、しっかりとした小説技術があって初めて成り立つものです。たまさか作品がヒットした純文学系作家がその後低調になってしまうのは、基本ができていないのにアクロバット技を続けようとするからです。一回着地が上手くいったからといって、技術がなければ次はコケます。
また小説に限らず、作家は一作書きあげたらすぐ次の作品を書き始めるのが正しい道です。昔書いた作品を何度も読み返したり、しょーもない昔話に花を咲かせているようではダメです。次の作品を書いていない、あるいは書けないからそうなる。厳しいようですが、ほとんどの書けない作家に共通する事実です。書いたらとっとと発表して次の作品に取りかかる。そのシステム作りも含めて広い意味での作家の実力です。書けない作家はそれを誤魔化そうとするから、発表の場を積極的に作らないと言っていい。また一作で当たって先生と呼ばれるなど心の底から断念した方がいい。作家の活路を開くのは書き続ける力以外にありません。
■ 原作・小原眞紀子 作・露津まりい 連載サスペンス小説『お菓子な殺意』(第03回) (縦書) ■
■ 原作・小原眞紀子 作・露津まりい 連載サスペンス小説『お菓子な殺意』(第03回) (横書) ■
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第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
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