小原眞紀子さんの連載純文学小説『神違え』(第06回)をアップしましたぁ。『神違え』は山城と呼ばれるマンションの年代記、つまりマンション管理組合の議事録を巡るお話です。この年代記を番台、つまりマンション管理人が持って逃げ、今回から物語は管理人を追う旅になります。
山城の年代記。
そんなものを朗読されて、誰が聞きたいだろう。
が、来林の長の頭には、すでにスポットライトを浴び、桜花の舞い散る中で巻き紙を拡げつつ朗々と読み上げる、おそらく自身の姿がくっきりと映像化されているようだった。
人は集まるわよ、と来林の長は言う。
「山城からだけでなく。近隣の民草、子らも」
そのためにチラシを作り、わたしに呪術をかけろ、とも言った。
だめよ、とわたしは応えた。「どんな文章を書いたって、人を集めて、喜ばせるなんてできない。怒らせることはできるけど」
来林の長にとって大事なことは、民草に聞かせる年代記の最後のところに、自身の功績が記されていることだった。
長は焦っていた。桜花の季節、能舞台が民に下ろされる第一番の舞台に間に合わせなくてはならない。
(小原眞紀子『神違え』)
こういった箇所に小原さん独特の面白さがあるなぁ。山城の年代記=あるマンションの管理組合議事録も、『古事記』や『日本書紀』や戦記物なども、基本的には同じ性質を持っているのです。文字で書かれ、そこに呪術的な何かが付加されている。小説などの物語の祖型になるような構造でもあります。
どんな場合でも事実はあっけないものです。渦中にいる時は単純で不可避的かつ不可逆的に出来事は起こります。でも後から振り返ると摩訶不思議なほど錯綜して見える。考えれば考えるほど当初ははっきりしていた事実が曖昧に思えてくる。文字で辿る記憶がそうさせるのです。ですから年代記を整合性のあるものにして、『桜花の季節、能舞台』で朗読するのは正しい。そこで初めて物語が完結するわけです。『神違え』、良質のポスト・モダン小説の一つだと思いますですぅ。
■ 小原眞紀子 連載純文学小説『神違え』(第06回) pdf版 ■
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