高島秋穂さんの詩誌時評『No.021 角川短歌 2015年11月号』をアップしましたぁ。第61回角川短歌賞を取り上げておられます。短歌界が経済的にちょ~苦しいのは俳句界、自由詩の世界と同じですが、活況を呈しています。すんげぇ厳しいことを言うと、経済と文学は密接につながっています。文学状況が社会状況に強く影響されるといふことを言っているわけでは必ずしもありません。
大の大人になってまで文学活動を行おうとすれば、ある程度の経済的バックボーンが必要になります。ところが小説の世界ですら文筆で食べていくのが難しい。いわんや詩の世界をや、です。本が売れて文筆で食べていくことができた時期には、一般社会でも優秀と言われる人たちが文学の世界に多数参入してきました。しかしこれだけ経済的に追い詰められると、まあはっきり言って、一般社会でもそれほど優秀ぢゃない人たちが、自らのアイデンティティを保持するために文学の世界に参入してきている傾向が見られます。文学系の編集者も同じかな。中堅大手出版社では、不況産業の文学編集に優秀な人材を割かなくなっています。悪循環ですねぇ。
そういう状況の中で、短歌界で刺激的な新人や作品を生み出しつつあるのは面白いことです。歌人さんたちには怒られるかもしれないですが、絶望が深いんでしょうね。歌壇では大結社と言っても俳壇のそれとは比較にならない。短歌人口が少ないのですから、俳句のような一般性も薄い。つまり経済的成功を最初から諦めているようなところがあるので、とても肝が据わっている。なにがあろうと本気、という人たちが集まっているのは短歌界の強みです。俳壇はなんやかんや言って稼ぐ手段があるので、若手俳人たちの邪念が多い。自由詩詩壇はよくわかんない。片手で数えられるほどしか詩で食べている詩人がおらず、現存詩人の詩は一般読者にまったくと言っていいほど読まれていないのに、危機感すら薄いですねぇ。
やわらかく世界に踏み入れるためのスニーカーには夜風の匂い 鈴木加茂太
星屑を蹴散らしてゆく淋しさをひと晩で知り尽くす革靴
スニーカーひっくり返しきらきら星変奏曲の小石呼び出す
水底にさす木洩れ日のしずけさに〈海〉の譜面をコピーしており
合歓の木のもとに手放す未来あり金貨のように夏は流れて
考えることは言葉の奴隷だと考え運ぶ四月の辞書を 佐佐木定綱
中指の腹をケガして心置きなく中指を突き立てている
棚の前を細胞のように入れ替えて変化してゆく日々を生きよう
十年後存在しないかもしれない本と言葉と職種と我と
自らの存在するを知りたくて夜中にキィキィブランコは鳴く
今回の角川短歌賞は、新人賞が鈴木加茂太さん、次席受賞が佐佐木定綱さんでした。高嶋さんは、『短歌の世界は巨大観念と卑小な個に割れがちだった口語短歌的表現を統合しようとする方向に進んでいるのかもしれません。いっけんオーソドックスな生活短歌に新基軸を探ろうとするかのような新人選択だったと思います』と批評しておられます。
■ 高島秋穂 詩誌時評 『No.021 角川短歌 2015年11月号』 ■
■ 第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
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