第2回 辻原登奨励小説賞受賞作家・寅間心閑(とらま しんかん)さんの連載小説『証拠物件』(第03回)をアップしましたぁ。第二章になりいよいよ物語が動き始めます。三人の多少グレていますが、じゅうぶんに用心深い若者たちが、大人を罠にはめて大金をせしめようという計画を練り始めます。ただそんな犯罪に手を染める理由は、若者たちそれぞれに異なります。
俺は積極的に変化を求めたりはしないが、この生活に対してあまり未練はない。生命への未練は人一倍強いんだけどな。生活がどうなろうと生きてさえいればいいんだ。むしろ、こんな今の生活なんか早く変わってほしい。山奥でも海外でも無人島でも何処でもいいから、誰かこの身体ごと放り投げてくれないか。そう願っている。
こんな俺に比べれば、シュンジは生活に対しての未練があるはずだ。となると、ボスへの信頼感だけで最後の一線を越してしまったんだろうか。もしかして、と予想をしてみる。
もしかしてあいつも、普段の生活にとても退屈していたのかもしれない。その予想は多少突飛だったが、考えられない線じゃなかった。
そういえば昔から、シュンジの目はどこか寂しそうだ。
(寅間心閑『証拠物件』)
この抉るような自虐が寅間さんの小説の魅力の一つになっているのは確かです。一般論としていえば、このやうな自虐の発展方法はいくつかのタイプに分類できます。一つはしょーもないですが、なんらかの形で社会からスポットライトを浴びてダメになってしまふこと。簡単に言うとトゲが抜けるんですな。意外にそういったことは起こりやすいです。
も一つはもちろん自虐を極めることです。自虐の底に降りて空虚に達するわけですが、それを真空として描くこともできますし、新たな観念や思想の発生の萌芽として描くこともできます。ただそれが説得力を得るためには、強い思い入れ、あるいは思い込みが必要です。ほんのわずかな差がフィクションのリアリティを決める。寅間さんはブルドーザー的作家なので、どちゃらの底にも降りることができるでせうね。
■ 寅間心閑 連載小説『証拠物件』(第03回) pdf版 ■
■ 寅間心閑 連載小説『証拠物件』(第03回) テキスト版 ■
■ 第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第04回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
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