山本俊則さんの美術展時評『No.049 菱田春草』をアップしましたぁ。東京国立近代美術館では、明治維新以降の近代日本画の巨匠の大回顧展を継続的に開催しています。菱田春草(ひしだしゅんそう)もその一人です。明治7年(1874年)生まれですが、明治44年(1911年)、37歳の時に慢性腎臓炎をわずらって早世してしまった画家です。横山大観(よこやまたいかん)とともに、岡倉天心(おかくらてんしん)の影響を強く受けた画家としても知られます。
天心主導の絵画は春草と大観によって最も良く表現されたわけですが、その画法は〝朦朧体〟と呼ばれます。山本さんは、『日本画は墨で輪郭線を描きその中に色を乗せるのが基本だが、朦朧体はそれを排して画面に直接色を塗り伸ばしてゆく技法である。(中略)朦朧体の試みは、天心が光や空気を描く方法はないかと言いだしたことから始まった。日本画でもヨーロッパの印象派のように光の陰翳の絵を生み出そうという発想から始まった技法である。油絵のように絵の具を直接画面に乗せてゆく新技法でもあった』と説明しておられます。残されている絵を見ると、春草の方が大観より極端な朦朧体の試みを行っていた面があるようです。
また春草は日本画の大家ですが、今ひとつとらえ所のない画家です。その理由を山本さんは、『大観作品には、対象への愛が感じられる。(中略)しかし春草にとっての朦朧体はより技術的なものだっただろう。自然や動植物といった世界内存在を、その本質が不可知なら不可知のままに、自律し完結した存在として描き出すために朦朧体の遠近法が援用されている。春草の絵に突き放したような冷たさと張り詰めた空虚さがあるのは、彼が対象への愛ではなく、対象を描く絵の方法に憑かれた画家だったからではないかと思う。それが彼の画家思想である』と批評しておられます。じっくりお楽しみください。
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