第2回 辻原登奨励小説賞受賞作 寅間心閑(とらま しんかん)さんの連載小説『再開発騒ぎ』(第04回)をアップしましたぁ。再開発反対の市民運動、〝こころの夜警団〟が活動を始めました。もちろんそれは人間たちの運動で、選挙がらみの市民運動でもあります。作品中でこころの夜警団主宰のライブがあり、音楽の後に区長選に立候補予定の政治家さんが挨拶をします。
彼は笑顔で自己紹介をした後、夜警団の説明、結成のいきさつをよく通る声で話し始める。もちろん全部知っている話だったが、知らない人の口から聞くと少し感触が違う。オランウータンの話がラフなデッサンだとすれば、彼の話は完成された絵だ。額に飾られ、鑑賞される準備が整った絵。
どちらが良い悪い、という話ではない。それは好き嫌いの問題になってしまう。ただ、より効果的に伝達したいならば、絵が完成しているのに越したことはない、と僕は思う。
政治の演説を聞いた主人公のモノローグですが、『より効果的に伝達したいならば、絵が完成しているのに越したことはない』といふのは、もちろん反語です。彼は恐らくなにかを社会に向けて、〝より効果的に伝達したい〟とは考えていない。それが彼が画家になるためのハードルになったのかもしれません。また反対運動が〝こころの夜警団〟と名付けられた理由かもしれません。〝こころ〟を一つにまとめるのは不可能です。
それは動物たちが集まるバーにも共通した心理であり、立場でもあります。しかし社会に向けてなにかを主張し、それを押し通してゆこうとすれば、なんらかの形で複雑に入り組んだ〝こころ〟の諸相をそぎ落としてゆくしかありません。政治はもちろん、芸術においてもそれは言えます。『再開発騒ぎ』にはビルドゥングス・ロマンの要素もあるのかもしれませんね。
■ 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)は3月31日〆切です ■
金魚屋では21世紀の文学界を担う新たな才能を求めています。
小説はもちろん短歌・俳句・自由詩などの詩のジャンル、あるいは文芸評論などで、思う存分、新たな世界観、文学観を表現したい意欲的作家の皆様の作品をお待ちしております。
■ 寅間心閑 連載小説『再開発騒ぎ』(第04回) pdf版 ■
■ 寅間心閑 連載小説『再開発騒ぎ』(第04回) テキスト版 ■