第2回 辻原登奨励小説賞受賞作 寅間心閑(とらま しんかん)さんの連載小説『再開発騒ぎ』(第03回)をアップしましたぁ。お気づきの読者の方も多いと思いますが、『再開発騒ぎ』は東京下北沢を舞台にしています。下北沢は東京有数の繁華街の一つですが、独特の雰囲気を持つ街です。
寅間さんは小説中で、『この町はいい町ですよ。馬鹿でかいビルが立ち並んでいるわけでもなく、小ぎれいに区画整理されているわけでもない。昔ながらの雑多な雰囲気があちこちに残っている。皆さんも経験あるでしょう? 偶然通った裏道で知らない店に入り、初めて会ったそこの客とワイワイ朝まで飲んだりとか、ね? 音楽、映画、演劇、文学、人生。思わず熱く語ってしまうムードがこの町にはあるでしょ?』と書いておられますが、住宅街の中に広がるリゾーム的な街です。
この街が舞台だと、動物たちが集まるバーに人間が紛れ込むこともあるやうな気がしてきます。ただ人間が動物たちのバーに入りびたることは、その人の孤独を表象しています。ただ人は生きている限り、世界と交渉を断って孤独ではいられないのです。
そんな記憶が渦をつくりはじめ、睡魔の力を借りなくてもよくなった頃、僕は思い出した。画集の在り処ではなかったが、それと同じくらい重要なこと。
実は、あの絵は夜を描いてはいない。
だから「夜警」は言うなればあだ名、通称になる。本当のタイトルは、長ったらしくて思い出せそうにないが、とにかくあれは昼の絵だ。にも拘らず、夜の情景だと勘違いされてきたのは、キャンバスに塗ったニスが変色して黒ずんでしまったから。今では修復され、本来の明るさを取り戻している。
それでもみんなは、「夜警」と呼び続けているのだけれど。
不思議なバーのある街で起こった〝再開発騒ぎ〟は再開発反対運動となり始め、その運動は『こころの夜警団』と名付けられます。そこから主人公はレンブラントの名画『夜警』を思い出す。正確に言うと、動物たちのバーから彼女と同棲する人間世界の家に帰って来たときに、主人公の心を占めるのがレンブラントの『夜警』です。それは『夜警』と呼ばれていますが、実は〝昼の絵〟です。小説はこういった形で人間心理と風景や物が結びつく芸術です。
■ 寅間心閑 連載小説『再開発騒ぎ』(第03回) pdf版 ■
■ 寅間心閑 連載小説『再開発騒ぎ』(第03回) テキスト版 ■