大篠夏彦さんの文芸誌時評『No.019 文學界 2014年12月号』をアップしましたぁ。文學界新人賞を取り上げておられます。今年度は板垣真任氏の「トレイス」が受賞され、佳作に選ばれた小笠原瀧氏の「夜の斧」、森井良氏の「ミックスルーム」が作品掲載されました。
大篠さんは「「文學界」に〝選ばれた〟作家たちは、ほぼ必然的に「文學界」カルチャーを守る使命を負うことになる。しかし純文学が活路を見出すのは既存の文学的価値を固守する作家たちではなく、それを相対化できる作家ではないかと思う」と書いておられますが、不肖・石川もそう思います。石川が編集者目線で見ても文學界さん好みの作家が受賞されたなぁと思います。違う文芸誌なら選ばれなかったかもしれません。
大篠さんの論点は「今回の新人賞三作に共通しているのは強い閉塞感である。問題は明白であるはずなのに・・・問題は問題そのものの中にとぐろを巻くように差し戻される」、「板垣氏の家族に痴呆老人がおらず、小笠原氏に幸せな幼年時代の記憶しかなく、森井氏がゲイではないとしたら・・・作品は完全なフィクションだということになる。すべて虚構(嘘)だとすれば、なぜこのような重苦しいテーマを選び、なんの解決も示さずに問題を先送りしたのかの理由が問われる。また私小説でかつ内容が完全なフィクションであることは、従来の私小説とそれを護持するメディアへの痛烈な批判として作用するはずである」という批評に集約されているでせうね。
ところで芥川賞・直木賞の発表が迫っております。又吉直樹さんの『火花』が芥川賞を受賞するかどうかに注目が集まっていますが、文藝春秋社文學界への貢献度から言えば受賞は当然だと石川は思います。今年純文学業界で一番売れた本は『火花』で文學界さんは雑誌の増刷まで行っています。芥川賞を受賞すればミリオンセラーも夢ではないわけで、この絶好のビジネスチャンスを逃すってーのは、ちょいと正気とは思えない。もう十分儲けたっていうのなら話しは別ですが、そうそう『火花』のように売れる作品は出ないでせうね(爆)。しかもプロの作家たちの評価も高く、芥川・直木賞は最近では2人受賞が多いんですから。
情報化時代になって様々な情報が、裏情報まで含めて公開されていますが、芥川賞・直木賞はアンタッチャブルですね。文学青年・少女がまだまだ芥川賞・直木賞に夢いっぱいのせひかもしれません。でも芥川賞・直木賞は文藝春秋社主催の賞です。可能な限りバランスを取っている優れた文学賞だと思いますが、企業の好みや方針が反映されるのは当然のことです。無色透明で中立的な文学賞など存在しないのです。それを的確に認識把握すれば、文学青年・少女の皆さんが新人賞を受賞して芥川賞・直木賞に近づく道は、ぐっと近くなると思いますぅ。
■ 大篠夏彦 文芸誌時評 『No.019 文學界 2014年12月号』 ■