小原眞紀子さんの連載小説『はいから平家』(第03回)をアップしましたぁ。み幸と洋彦の旅はいよいよ九州に突入しました。『はいから平家』の主人公はみ幸なのですが、声が出にくいといふ設定で、それを補うやうに口の悪い洋彦が日本各地の風物に文句を言いまくります。今回も博多で、「居酒屋の看板には烏賊を姿ごと刺身にした写真が掲げられている。クリスタル造りとキャプションが付いている。晴れたり曇ったりという名の店もある。なんて言語感覚だ、関門海峡で日本語は身投げして果てたのかと洋彦は呆れる」とあります。でもこれで怒るかいっしょに笑うかで、その土地土地の特性がわかったりしまふ(爆)。またみ幸の九州の親戚の方々は、洋彦の口の悪さを上回る言語的暴れっぷりであります。
お祖母ちゃん、どうぞこれ、持って帰って、と、み幸は揚げ物と甘く煮付けた鯛の兜煮の皿を指差す。(中略)
「うんまーっ、そうですかっ、」と、中年の仲居は坐り込み、「なんちゅうう、よいお孫さんですだろ、奥さんな、ほんなーっこつ、幸せもんかねええっ、」と顔を覆った。「いいっつも、お客さんたちの、料理ばたあくっさん残されてから、なんでだろかあっ、って思ってましたところに、まあ、持って帰ってくれんだろか、ほんに傷ましかって、そぎゃん言ってくださっとは、東京の方の、なんとなんと、おやさしかあああっ」(中略)
「いや、よか、折り詰めなんて下げて帰えらんで、」
よかって、遠慮ばさしてはいよっ、もう、よかーっ、よかーっ、と祖母は拳を握りしめて不意に立ち上がると、床の間の時計を振り返った。
この記述って、多分、そうとうリアリティがあるといふか、実際に起こったやり取りに近いんでしょうね。その場にいたらチョ~脱力して苦笑いするしかなひ会話ですが、こうやって作品に取り込まれると、ある本質を示唆する日常のフラグメントになります。実際には日本全国でこういった会話が無数に交わされているのに、それを拾い上げる小説作品って意外に少ない。『はいから平家』、スピード感があって、かなり可笑しい系の純文学作品でありますぅ(爆)。
■ 小原眞紀子 連載純文学小説 『はいから平家』(第03回) pdf 版 ■
■ 小原眞紀子 連載純文学小説 『はいから平家』(第03回) テキスト版 ■