世界(異界)を創造する作家、遠藤徹さんの連載小説『贄の王』(第04回)をアップしましたぁ。今回は『贄の王』の小説世界を構成する重要な登場人物、呪師弦海のお話です。
弦海が古き方々から授かった水晶球が破裂するのですが、『敵意に尖る幾千もの切っ先であった。にもかかわらず、弦海を蜂の巣にすることはできなかった。・・・触れることすらできずに、水晶球の破片どもはすり抜けてしまった。摩擦すらなかったようだ。勢いを失うことすらなかった。そのまま無数の切っ先となって凶暴に突き進んだ。そして、背後に控えていた侍官や警備兵たちの肉に深々と刺さった。奥深くへと潜り込んだ』といふ叙述です。
この畳み掛けるような言葉、いいですねぇ。単純なようですが、こういったところに作家が抱える世界観への本気度が出るのです。作家が表現したい、『深々』と『奥深く』へ、『刺さ』り『潜り込』むことを言葉で叙述するとはそういうことです。
弦海だけが無傷でいられたのは、修行によって肉体を解脱しているからですが、彼は超俗の人ではなく俗世の王・璽椰鵡に仕えています。璽椰鵡は『悟りし者こそ、堕ちる悦びに焦がれるもの。捨てし者こそ、より強く欲するもの。・・・爾後は超越せしその力でわれを支えよ。この世の栄華、ともに味わい尽くそうぞ』と語りかけ、弦海を右腕にしたのです。至聖は至俗に通じます。『贄の王』の大きなテーマであり、弦海はそれを象徴する登場人物でせうね。
不肖・石川、信念を持つ作家が大好きでありまふ。純文学・大衆文学を問わず、書き続けてゆくためには、そりゃーいろいろございます。時には節を折らなきゃならないことだってある。でも作家は最後のところ、自分の確信的な信念を曲げちゃダメでござる。文化は豊かな社会の上澄みです。生活に必要不可欠なものぢゃない。しかしこの文化の上澄みに社会の底力が出るのです。それを支えているのは優れた作家の信念です。信念を持つ作家は社会に向けて、ドンドンガシガシ書き続けてゆくのが絶対的に良いのでありますぅ。
■ 遠藤徹 連載小説 『贄の王』(第04回) テキスト版 ■