一.スライ&ザ・ファミリー・ストーン
急に暑くなった。ウンザリはするが驚かない。ただ行動パターンに変化は出る。買い物は早い時間に、とか、まあ家呑みでいいんじゃね等々。結果オカミから注意されるまでもなく不要不急を避けるようになる……はずがやっちまった。昔から暑いのが嫌いで、毎年夏は外出回数が半減するほどなのに野暮用ひとつ片付け忘れていた……嗚呼! 日程的に余裕もないので仕方なく想定外の外出へ。嫌々一歩踏み出すと、まだ朝なのに重めの熱気がまとわりつく。この瞬間「どうせなら」と考え方がチェンジ。野暮用終えたらさっさと帰るつもりだったけど、どうせなら呑んどくか。
毎夏羨ましく思うのは、大阪や福岡の立ち飲み屋を擁した地下街。あの規模、そして雰囲気は都内にない。本当はこんな日に暑さを避けるなら、ああいう地下街がベスト。なんてウダウダと考えつつ野暮用を終え、早々に自由の身へ。時間は午前十時過ぎ。意外と近場だったので久々に地下鉄で築地市場へ。魚河岸ビルなら涼しいし、たしか飲食できたはず。ノープランだけど何とかなるっしょ、と駅を出た呑気な私の視界にはたくさんの外国人観光客。暑さと相俟って頭がクラクラしてくる。なんとか人波に乗って魚河岸ビルへ到着、確かに上階に飲食店&スペースはあったが大混雑。こりゃリラックスできんな。そう判断し、また人波に揉まれつつ地下鉄へ。涼を求めて避難した先は船堀。駅前の無料バスの行先は競艇場、ボートレース江戸川。ここにも涼がある。100円払って入場したら、まずは売店で400円のレモンサワーを調達して施設内をぐるり。時間は正午前、彼方此方で諸先輩がたが楽しんでおられる。外階段で紙コップの水を頭にかけていたベテランさんは、きっとクールダウン中。目の前のレースだけでなく全国のレースに賭けられるから、その気になれば引っ切り無し。無論私は呑みメインなのでのんびりと。数レース勝負し、得した分で祝杯を。施設の向かいには呑み屋が二軒。これまたノープランで入ったら、まさかの冷房激弱。ほぼ外気温。二択をあえなく外すとは、やっぱり賭けごと向いていないかも。
亡くなったからその人について書く、というのはあまり好きではない。ただ例外は何人かいてスライ&ザ・ファミリー・ストーンのフロントマン、スライ・ストーンはその一人。一週間ほど前、天国へ旅立ってしまった。彼が時代やジャンルを超え各所に膨大な影響を与えまくったことは事実だし、薬物使用やその結果としての奇行等で才能をフルに使いきれなかったことも多分事実。そして私が「ファンキー」に関する重要なポイント、具体的には「クール」と「シンプル」を彼から学んだことも事実。ヒートアップするだけでないその斬り口は今も新鮮に、そして少々奇妙に響く。彼のキャリアで健康的にキラキラ輝いている時期は極めて短いが、薬物にどっぷり溺れた後も多くのミュージシャンたちが手を差し伸べてきた。最後のスタジオ録音盤『エイント・バット・ザ・ワン・ウェイ』(’82)は途中までジョージ・クリントンがサポートしたが結果的に成功は収められず。過去の自分の焼き直し、という評価に異論はないが、それでもまだ十分魅力的に響くこともまた事実。今回はそんな曲をお届けします。
【 Ha Ha, Hee Hee / Sly & The Family Stone 】
二.ポール・ウィリアムス
シンプルな二択で激弱冷房を引き当てた為、背中がじんわり汗ばんだ状態で帰りの無料バスへ。行きと違って超満員の社内にどうにか乗り込み、冷房の送風口に顔を近付け涼をとる。走行中に考えていたことは、どこか一息つける場所はないものか。降車間際に思い出したのは、故郷の隣県・福岡発祥のローカルうどん屋「S」が数ヶ月前に都内初出店を果たしたというニュース。調べると場所は両国。こりゃ近いと迷わず決定。時間的に混んでいるかと思いきや広々とした店内、そして座席。無論涼しい。卓上ポットから冷水を一杯、の前に赤星中瓶をタブレットでオーダー。よかとこばい、と呟いてみたものの実は初入店。私は所謂思春期を向こうで過ごしていないので、記憶/知識の偏りがひどい。もしかしたらソウルフードだったかも、と思いながらの冷たいうどんは格別。そしてビールのお供にはフリーの壺漬け、大変美味しゅうございました。
義務教育中の季節休みに帰省した際、テレビが楽しみだったと以前記したが、深夜になると映画もよく流れていた。一番印象深いのは『ファントム・オブ・パラダイス』(‘74)。後年調べると「古典『オペラ座の怪人』をロック・ミュージカル仕立てに」とあったが、当時の印象はおどろおどろしい映像のせいでホラー寄り。音楽はイカしていたがそれもそのはず、主演&音楽担当はポール・ウィリアムス。カーペンターズ等への楽曲提供で知られる御方だった。今見返しても、やはりおどろおどろしい。たしかあの部屋にエアコンはなかったが、怖さ由来の涼しさを感じていたのかも。
【 Faust from: Phantom of the Paradise 】
三.民謡クルセイダーズ
さて汗は引いた。ソウルフード候補を食べ終えた身としては〆の一杯が欲しいところ。とはいえ、まだ昼下がり。だったらと今度こそノープランで大丈夫な上野まで。外から覗ける立ち飲み屋は軒並み大入り、皆様お好きねえ。では、といつもの「T」へ。ふと気付けば少し高い。そりゃそうか、と世相を浮かべるまでもない。物価高、米騒動、予言の類。本当に世知辛い。大らかにいきたいけどそれも才能。難しければ頭のネジを緩めればいい。ちなみに大瓶と煮込みで690円。おやロックだね、なんてネジを緩めてクールダウン。
本日最後にご紹介するのは、民謡クルセイダーズ。或る意味その名の通りで、或る意味想定外のバンド。民謡と呼べば少々マイルドだが、「ソーラン節」や「貝殻節」のような作業歌、労働歌も数多く含まれる。そこに在るのは我々民衆の……なんて危なくヒートアップしそうになっちまった。今大事なのはクールダウン。兎にも角にも健康第一、こまめな水分補給を忘れずに。
【貝殻節 / 民謡クルセイダーズ】
寅間心閑
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