一.三波春夫+コーネリアス
ディランとザ・バンドによる名盤タイトルのように「偉大なる復活」とはいかずとも、ゆるりと再び呑み始めることに。せっかくなら、と久々の一杯目は朝にしようと悪だくみ。更に未開の地を、と欲張って前日から下調べ。都内だと店舗形態の朝呑み可能店は意外に多いが、角打ちだとなかなか厳しい。しかも初めてとなると……なんて苦しみつつ探るのも実は楽しく。学生の頃、時刻表を頼りに貧乏旅程を計画していたあの感じ。ただ一番の違いは正確さ。角打ちはあくまでも酒屋さんのサービス。飲食店ではないのでネット情報があまりアテにならない。昼前に訪れて「角打ちは夕方からなのよ」はザラ。何なら現在は角打ち中止、または店自体が閉店なんてこともある。ま、それも含めての魅力なのですが。
前夜、何とか見つけたのは日暮里の酒屋「Y」。朝九時開店だけでなく呑めることもしっかり確認し、いざ繊維街へ。さすがに見慣れぬ客の開店同時入店は怪しさ倍増なので、余裕を持って生地織物店が立ち並ぶ街並みをテクテク。外国人観光客もチラホラ。思い出すのは、数年前にこの世を去った裁縫好きの郷里の伯母。連れていくという約束、守れなかったな。思いがけずテクテクしまくり店に着いたのは十時前。のんびりと雑然が混在する雰囲気、好みのヤツです。肴に駄菓子があるのも病み上がりには有難い。自家製感満点のレモンサワーに合うのはベビースター、55円也。帰り際、浅草にある同名の酒屋さんについて尋ねていると、入口のマットに存外に大きな犬が寝そべった。もちろん起こさぬよう静かに退店。復帰の第一歩は忍び足で。
店を出てもまだ朝。分かっちゃいるけど、脳内BGMは「赤とんぼ」。ちあきなおみの名曲の方ではなく、あの童謡。ただし歌い手は三波春夫、リミックスはコーネリアス(=小山田圭吾)。雑にまとめると五輪コンビ。朝なのに、夕焼け小焼け。そんなチグハグを遥か遠くに吹き飛ばす圧の強い歌声と、それを包む音色の絶妙な薄さ。正に滋味溢れるラッピング、最高。亡くなった父が「浪曲あがりは歌上手いから」とよく言っていたが、なるほど頷ける。言葉の意味よりも早く、音波が飛び込んで揺らしてくる感じ。
【赤とんぼ / 三波春夫+コーネリアス】
二.芸能山城組
開き直るわけじゃないけれど、意味の分かりきらない言葉で歌われる音楽には慣れている。良いことも悪いこともあるだろうけど、もうこれ以降聴き方が変わることはないはず……と言いつつ何となく浮かべていた言語は英語。改めて較べると、ポルトガル語やフランス語や韓国語のような非英語モノを聴く機会はグッと少ないが、ひとつも手掛かりがなくなるあの感じ、案外嫌いではない。だだっ広いスペースにポンと放り出されたみたいで面白い。印象深かったのは芸能山城組。有名なのは映画版『AKIRA』の音楽担当だろうけど、Wikiの説明を借りれば「民族音楽を主題にした楽曲を発表している」グループ。個人的には、珍しい音楽を奏でる集団。初めて聴いたベスト盤『芸能山城組入門』(’88)は、東欧、アジア、アフリカ、日本の民謡等々、未知の音楽が次々と脳味噌をグラグラ揺さぶる強烈な体験で、長らく通学時のBGMだった。今回お聴きいただくのはロシア民謡。オリジナル盤は『地の響~東ヨーロッパを歌う』(’76)。ブルガリア地方の女声合唱、いわゆる「ブルガリアン・ヴォイス」が日本では80年代後半に流行ったが、それに先んずること十年、母体が男女混成合唱団という経緯も納得の迫力、そして美しさ。タイトルを知り、何についての歌なのかようやくヒントが与えられる模索感も併せてどうぞ。
久々に朝呑みしたら、そりゃあ夕方にも?みたくなる。沢山ある候補の中から、案外短時間で決めたのは高田馬場の居酒屋「T」。此方のお店だけでなく街自体も久々。元々留学生の多い街だが、以前よりも更に異国度数がアップした印象。朝と同じくこれまたテクテクしまくり、入店した時には程よく喉が渇いていた。此方を選んだ理由はのんびりしたかったから。椅子に座って、のんびりメニューを眺めたかった。復帰二戦目、動きはまだまだ緩慢。下手に動くとぶっ倒れる。店主と常連の会話から御無沙汰していた時期の変化を探りつつ、絶品のポテサラをハーフサイズでいただきます。
【わたしの亜麻畑 / 芸能山城組】
三.ズボンズ
意味が分かる日本語詞だって、聴こえ方によってはチグハグになる。言葉を音楽に浸した結果、果たしてどうなるか。昔はどうもならないことが良いと思っていた。即ち変化ナシ。言葉そのものの意味が届くべきだ、と。でもいつからか違う。チグハグになった方が、意味から解放された方が、違う意味が付加した方がきっと面白い。数年前、甲本ヒロトが俳優・菅田将暉に「今は歌詞を聞きすぎだと思う」と言っていたが、そのニュアンスに近い。パッと浮かんだのはズボンズ。彼、彼女らのファンキーさはストーンズのそれで、個人的に稀少種だと思っている。本場、つまり黒人音楽由来のファンキーや、ストーンズの他の魅力を燃料にするバンドは多いが、このパターンは稀。芯となるのは無論絶品のサウンドだが、そこを補佐するのは歌詞。ファンキーの邪魔をしない、と言い換えてもギリギリ無問題。おかげで何度聴いても興奮できる。
やはり夕方呑んじゃうともう一軒行きたくなる。「いいねえ」「でもなあ」なんて逡巡しているうち気付けば荻窪。どうやら?むことは確定。あとは店選びだけみたい。やっぱりダメな人ねえ。結果訪れたのは朝同様に未開の地、居酒屋「T」。年季の入ったグランジな店構えに即イチコロでした。まずは大瓶とニラ玉を頼んで様子窺い。カウンターのみの店内も相当グランジ。生活スペースとの境界線が曖昧。そうそう、この感じ。きっと親世代であろう女将さんのマイペースに、段々と客が巻き込まれていく。静かな空間に渦巻くオリジナリティー。きっと何度来ても堪能できる。
【 Doo-Bee / Zoobombs 】
寅間心閑
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