一.グアナバッツ

夏と冬の二季なんてゾッとしないね、なんて笑っていた自分が恨めしいくらい二季。流行歌というより唱歌のように親しまれてきた「四季の歌」――春を愛する人は、と歌い始まるあのポピュラーソングも、ここ最近は少々居心地が悪いかもしれない。まあ、だからといって気候に逆らっても仕方ないし、何ならそうなったのは我々の仕業なんだろうし……、ということで一旦冬を楽しむ方へシフトチェンジ。熱燗とおでんを求めマフラー巻いて外へ出る。毎年顔を出すアチラやコチラは、もうちょい冷え込んでからとして今は新規開拓に励みましょう。無論候補は複数あって悠長に迷っていられない。何せ二季だ。すぐ夏になっちまうぞ。
昨晩立ち寄ったのは吉祥寺の「T」。此方は創業八十年(!)の老舗練り物屋さんが、少し前に開いた立飲み。いつも結構混んでいるが、端っこに丁度なスペースがあったので心持ち早足で滑り込む。まず熱燗を頼んで約二十種類のタネから吟味。寿司みたいに言うなら「私、安くあがるのよ」。ええ、昆布とシラタキが好きでして。あとは……サメすじ。サメすじ? まあ何となく分かる。すじ、だ。でも牛ではなくサメ。聞けば元々関東で「すじ」は「魚が原料の練り物」、とのこと。何となくの予想は当たらずも遠からずだが、ちょっと違った。想定外に美味。確かにおでんは店々の個性が強烈に出る。振り返れば最初に頼むのは、安上がりの昆布&シラタキとその店の個性が出たサムシングかも。更にいえば、昆布&シラタキにも店々の個性が染み込んでいる。あの店のアレとあの店のアレと……なんてオールスター戦を夢見つつ熱燗をもう一杯。やっぱりいいね、冬。春と秋の二季なんてパッとしないね。
ロカビリーというジャンルは古い。生まれは50年代。若い頃に古臭いと感じたのも仕方ない。辛うじて馴染みがあったのは、パンクの影響を受けたネオロカビリーや、ガレージ・ロック感も強くSFやホラー・テイストのバンドも多いサイコビリー。実はこの辺りのジャンルの在り方は想定外に細かく、マニアック度数が高いエリアと認識。だから、という訳ではないが接点はバンド単位よりも曲単位で持つことが多い。この曲クラブでかかると盛り上がるよね、的な認識でなかなかアルバム一枚聴いてみようとはならなかった。で、実際に聴いてみると当然ながら盛り上がるナンバーばかりではない。まあクラブでDJがセレクトする曲って、ある意味オールスター戦みたいなものだから本当に当然の話。ただ最近はアルバム単位でも耳心地が良い。ソウルやドゥーワップなど50年代産のジャンルに親しんだ結果、同期のロカビリーへの感覚が変化した為、とヘボ探偵なりに推理。まだ素人なもんで速さや荒々しさは欲しく、最近のお気に入りは80年代英国産のサイコビリー・バンド、グアナバッツ。音色は軽めだが実はそこが良かったり。ちなみにお聴きいただく曲は4枚目『Rough Edges』(’88)収録。3年前にリリースのデビュー盤は更に軽く、エレキ感も薄い。
【 Good News / Guana Batz 】
二.中山千夏

先日大阪で呑んだ際、立ち寄ったのは久々の「新梅田食道街」。ハイ、「食道」でOKです。こちらは百近くの飲食店を擁する高架下のパラダイス。曜日的に休みの店も多かったので目的を新規開拓にチェンジ。ウロウログルグルと徘徊した結果、立飲み「S」へ。向かいの立飲みと迷ったが、魅力的な御品書きにイチコロ。「梨と生ハムの白和え」「蟹味噌クリームチーズ」が300円台。ええ迷いませんとも。刺身の種類も多いしウナギの白焼きもあるし、これぞオールスター。若い女性の店員さんも愛嬌/愛想よく、混み具合に納得。近所にあればなあ、と最大級の賛辞が思わず漏れた。
多才が故に中山千夏を伝えるのは難しい。作家、歌手、女優、元国会議員。個人的にはアニメ『ドロロンえん魔くん』(’73)のOP&ED曲の歌声が馴染み深く、アニメ版『じゃりン子チエ』(’81)の声の印象が強い。ちなみにチエちゃんはホルモン屋を切り盛りする小五の女の子。ねえ、素晴らしい。とにかく多才な彼女の歌手業に触れたのは、作曲家・中村八大の作品集。その中の一曲「宇宙にとびこめ」(’71)が抜群に良く、歌手名を見て吃驚。以前聴いたヒット曲「あなたの心に」(’69)がピンとこなかったので、ちっとも掘り下げなかった。シンガーはこのパターンがあると痛感した一件。
【宇宙にとびこめ / 中山千夏】
三.ロン・ロン・クルー

年末が近くなり、ぽつぽつと忘年会の予定が入り始めた。ただ大人数で呑むタイプのものはナシ。ほとんどがサシ飲み。先日は幼馴染みと夕方前からスタート。まずは中央線沿線某駅駅前で、ベンチに座って近況報告。もちろんそれぞれ燃料補給しながらなので多少の寒さはスルー。この0次会は定番コースだが、師走だからか何となく人々の往来が通常より多い。九十度近く腰の曲がった爺様Aが腰を下ろした数分後、自転車で現れた爺様B。突然ハモニカで数曲流暢に吹き、ウクレレを取り出し歌い出す。生のBGMとさして気にも留めなかったが、気付けばハモニカの伴奏で歌う声が。見れば爺様Aが立ち上がり、地面を見ながら歌っていた。パーマネントなデュオなのか、即席コンビなのかは知らないがこんな調子で師走の駅前はカオス、もといオールスター戦。通常より早めに日が暮れた。
半月ほど前、何気なく聴いていたのは国産のスリーピースバンド、ロン・ロン・クルー。オリジナルは勿論のことカヴァーの選曲と仕上げが好み。ノリノリで聴き終わって数時間後、耳について離れない旋律がある。再度聴いてみるとベン・フォールズ・ファイヴのカヴァー。しかもよく聴いていたデビュー盤(’95)じゃないか。前はそれほどでもなかったけど今ドンピシャ、はよくあるケース。でも旋律が抜け落ちていたのは少々ショックだった。まあアレか、最初の感動が何度でも味わえるってことだ――。こんな風に虚勢を張りつつ来年も頑張る所存です。皆様にとっても佳き一年でありますように。いつもありがとう。
【 Sports & Wine / RON RON CLOU 】
寅間心閑
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