一.チャボロ・シュミット
毎年毎年この季節になると暑がっているが、まあ仕方ない。今朝も起きたらキッチンの温度は二十九度強。部屋の構造上、熱が篭りやすいのは理解しているが、それにしても、ねえ。ざっくり、あと四ヶ月は暑いんだなと理解。今や十月も夏。暑さの影響は多々あるけれど、とにかく外出しなくなる。買い物ですら大変なのに、わざわざ呑みに行くなんて、と真っ当な理屈が頭をよぎる。それでも結局行くのだけれど、ブラブラ歩くのは厳しいので決め打ちが多くなる。徘徊率は減少、つまり未知の店舗発見率も減少。付け加えるなら決め打ちの段階において、初めての店は避けがち。だって暑い中を歩いた挙句、がっかりしたくないもの。ついつい信頼のおける店をチョイスしてしまう。
つい先日も決め打ちで外に出た。行先は高円寺。数店巡って来ようと、暑さの残る夕暮れの街をバス移動。再び付け加えるなら、バスっていうのもねえ。運とタイミング、どちらか悪ければ暑い中じっと待つ羽目になる。この日も十分ほど停留所にて待ち。それで調子が狂ったらしく、車内で予想外の睡魔に襲われ目的地を逃してしまった。結果、降りたのは次の停留所。歩くと意外にあるんだよなあ、とボヤきつつバスから出ると目の前に赤提灯。看板には「やきとり」「やきとん」。何たる偶然、何たる好立地。ハイ、迷わず入店。ひとり、と告げてカウンターに着席。小ぶりな店構えながら奥行きのあるメニューを眺め、密かに睡魔へ感謝する。あなたがいてくれて、本当によかった。どのお店でも変わらぬ個人的定番、レバ、タン、ナンコツをタレで堪能し、早々に次回来店を確定する。好みの味というだけでなく、地域密着なムードも素晴らしい。さて、今度は睡魔ナシで来れるかしらん。
過去を振り返るまでもなく、音楽へのアプローチの仕方は何通りかあって、例えば前もって色々調べたりせず、直感/勘でチョイスしたものが結果的に気に入る、というパターンが一番健康的。多くはジャケットが決め手だったりするが、ごく稀に名前がきっかけになったりもする。例えば今、部屋に流れているチャボロ・シュミット。チャボロというカタカナの並び、あと響きで興味を惹かれた。だって可愛いじゃない? チャボだしボロだし。調べるとセカンド・アルバム『ミリ・ファミリア』(’01)。当時四十七歳。ジャケットからギタリストであることは判明。いざ聴いてみたら所謂ジプシー・ジャズ。再び調べると「ジャンゴ・ラインハルトの最も忠実な後継者」とのこと。納得。ちなみにジャンゴの偉大さを一言で表すなら「ヨーロッパ初の偉大なジャズ・ミュージシャン」。ジプシー・ジャズも彼の発明。ただ個人的には後継者・チャボロの方がラフで好み。
【 Jean-Paul blues / Tchavolo Schmitt 】
二.ドクター・フィールグッド
もちろん幸運な偶然の出会いというのは少なく、大抵は「不可もなく」を理由として数度通い、良いところが見つかればキープ、なければバイバイとなる。期待値の高いお店だと、混雑していた場合は入店を諦めたりするので、数度通っても入店回数ゼロなケースもアリ。先日、約十年ぶりに入店した創業五十余年のもつ焼き店、吉祥寺「K」もそのパターン。ほぼ毎回、外から混みっぷりが確認できるので、スルーして他の店を訪れているが、今回は雨のせいか人影まばらだったので即入店。以前は注文の仕方など暗黙のルールがあったはずだが、ずいぶんソフトになった印象。のんびりと老舗の味を堪能できた。
耳が未熟な時期に、何度トライしても魅力が理解できない音楽は多かった。ありがちだったのは草分け役やルーツに近付けば近付くほど、楽しめなくなるパターン。特にハードなロック(≠ハードロック)やパンク界隈では頻出案件。パブ・ロックの代表格、ドクター・フィールグッドだってそう。かろうじてウィルコ・ジョンソンの指弾きギターの鋭さはキャッチできたが、落ち着いたテンポとシンプルすぎる曲が腰に響かせてはくれなかった。余談だが、彼等に関しては邦題のアタックの強さも、妙に期待値を上げた一因。二枚目は『不正療法』(’75)、ライヴ盤は『殺人病棟』(’76)。
時は流れ、今ではちゃんと腰で聴ける。デビュー盤『ダウン・バイ・ザ・ジェティ』(’75)、最高です。ただし楽しめるようになる「コツ」は今もって見つからない。私の見立てだけど、多分そんなものはない。
【 She Does It Right / Dr.Feelgood 】
三.P-MODEL
年々増えてきたのは「あれってどうだったっけ」と久々に確認する作業。物忘れ、と言ってしまえばそれまでだけれど、時折そこにも発見があったりする。きっかけは些細なこと。たとえば脳内で流れている曲の正体が分からなかったり。曲といっても、かなりモザイクがかかっている状態なので解析が困難。色々考えて出た結果は平沢進率いるP-MODEL。五枚目『アナザー・ゲーム』(’84)の収録曲「ATOM-SIBERIA」だった。前身バンド、マンドレイクやデビュー盤『イン・ア・モデル・ルーム』(’79)はよく聴いたけれど、この辺りはあまり。これも何かの縁と向き合ってみると非常に面白い。ケラ率いる有頂天への影響の大きさを再確認しつつ、物忘れも捨てたもんじゃないなと軽く負け惜しみ。
以前近所に住んでいたこともあり、時折訪れていた蕎麦屋がある。茶そばが食べれる東松原『I』。最近御無沙汰だったが、ふとした拍子に「あれってどうだったっけ」が始まってしまった。此方の玉子焼きは平日のみの提供だが、たしかあれ甘かったよね? こればかりは考えても仕方ないので行動あるのみ。いざ出発。敷地に入るとミストシャワー、窓の外には日本庭園、池には鯉。優雅に暑さを忘れ、中瓶で喉を潤しつつ玉子焼きをオーダー。数分後に運ばれてきたそれは、やはり甘かった。懐かしい祖母の味を思い出しつつ、ゆっくりと堪能し、〆はもちろん茶そば。毎日こんな感じで暑さを凌げれば良いのだけど。
【 ATOM-SIBERIA / P-MODEL 】
寅間心閑
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