一.スライ&ザ・ファミリー・ストーン
本来なら久々に呑みに行ったあの店やこの店の話を、アレもコレも詰め込んでしまい、いつにも増して読みづらく、ただただ熱量だけが空回りする文章で、せっかく読んで下さった方をガッカリ/ゲンナリさせていたかも。そう考えると、アソコやココの穴を塞ぐことなく、ただただ緊急事態宣言だけを延長するという決断にも意味があるのかも。なんてノロマな愚痴はここまでにして。
半月ほど前、久しぶりに午後八時近くの新宿を歩くと、ニュースの内容そのままに結構店はやっている/呼び込んでいる/呑ませている。立ち寄らない理由はいくつかあるけれど、最新のモノは「恐怖」。これ赤丸急上昇。――私、見たんです。テレビで見たんです。一度は救急車に乗せられたコロナ患者が、次々と病院に断られ結局家に戻されて、付き添っていた医者が謝っていたんです。患者の家族に対し、最悪の事態になる可能性を伝えて「申し訳ない」と謝っていたんです――。年齢やらタイミングやら色々な条件が揃った結果、素直に感じた「恐怖」。あれ以来、慎重さの度合いは上がったはず。それにまだ「一次的な免疫」しかついていないし。え、そんな言葉、ないんですか?
無論こんな日々には飽き飽きしてるけど、不思議と「呑む」という行為に飽きは来ない。そういや、そろそろ秋だねえ。秋刀魚とビール、と粋ぶってみたものの、店でそういう呑み方はあまりしない。季節関係なく角打ちで6Pチーズ齧っているのが、私は好きなんだった。コンビニやスーパーで缶入りアルコールを買う機会が増え、何より驚くのは次から次へと新しいブツが出てくること。最近は缶チューハイにも手を伸ばしがちで、この間試したのは果汁60パーセント。四捨五入を持ち出すまでもなく、味わいは予想通りジュース。未成年でもゴクゴクいけそうだな、と不埒な想像しながら飲み干し、飽きもせずまた次の店の酒売り場まで。
ドラムが叩けない私は打楽器への憧れが強い。なかなか家では試せないパーカッションを結構持っている。トップ・ブランド、その名も「ラテン・パーカッション社」、通称「LP」のモノが安かったりするとウズウズしちゃう。個人練習をしにスタジオへ入ると、勿論そこにはドラムがあるので一瞬迷う。叩いてみようかなあ、と。でも叩かない。だって「意外と叩けるかも」という希望くらい、持っていたいじゃない。そんな意気地なしが長年飽きないドラムといえば、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの陰の名盤『フレッシュ』(‘73)の一曲目「イン・タイム」。マイルス・デイヴィスがバンドのメンバーに何度も聴かせて「蛇のようにうねるシンコペーション」を学ばせようとした、という逸話も納得のグルーヴ。リズムボックスとのモゴモゴした絡みから、生々しいハイハットが合いの手のように入ってくる心地よさ。本当、飽きない。何百回でも聴ける、という数十年前の発言は証明されつつあるので、そろそろ「何千回でも」にランクアップしておかないと。
【 In Time / Sly & the Family Stone 】
二.ザ・クラッシュ
日本に数多いる、否、「いた」と過去形かもしれないビート系バンド。そこに多大な影響を与えた、否、お手本となったのはきっとザ・クラッシュの二枚目『動乱(獣を野に放て)』(’78)。粗削りでドライなデビュー盤『白い暴動』(’77)で完成しつつあったスタイルを、ゴージャス/グラマラスにオメカシした楽曲は、適度な潤いと企みを兼ね備えた日本人好みのカタチになっている。特にシングル・カットされた「トミー・ガン」のドラムは素晴らしい。本当、飽きない。喩えるなら、タネを知っているのに何度も見たくなる手品。つまり理想形。中盤を盛り上げるギターの単音カッティングと共に、飽きることない定番のアレンジが詰め込まれている。
タラ/レバの未練たっぷりな話を少しだけ。もし予定通りに緊急事態宣言が解除されてタラ、まずは友人の店に行くつもりだった。中規模の地下の立ち呑み屋で、赤星大瓶といぶりがっこを楽しみ、まだ懐と時間に余裕があレバ、贔屓のもつ焼き屋でナンコツとタンをタレで頼み、酎ハイで流し込みたかった。即ち飽きの来ない個人的定番。近いうち本当に解除されたら、暫くは定番ばかり注文しちゃいそう。
【 Tommy Gun / The Clash 】
三.セルジオ・メンデス
ドラム、ではなくパーカッションの音に興奮したい時は、ブラジルのポピュラー音楽「ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ」、通称MPBやサルサに身を委ねる。いわゆる8ビートのロックとは別種の快楽で、未知の領域が多い分、変に頭を使わず楽しめる。最初にハマったブラジル音楽は、名曲「マシュ・ケ・ナダ」のヒットで知られるセルジオ・メンデスの『ブラジレイロ』(’92)。確かオリジナル・ラブの田島貴男氏のオススメだったはず。一曲目「ファンファーハ」から百人超(!)の打楽器隊による、怒涛のパーカッションに圧倒される。実はこれ、セルジオ・メンデスが新しい音楽家たちの演奏をプロデュースしたもの。新しさとの出会いに、当時五十歳を迎えたベテランが刺激を受けている。
やはり前向きなタラ/レバの話もしておかないと。近い将来、色々気にせず呑み屋でリラックスできる日常が戻っタラ、前述の通り馴染みの店、贔屓の店に顔を出したい。もしかしたら新しい変化があるかもしれないし、それに慣れるまで少し時間がかかるかもしれない。でも、今までもずっとそうだったはず。人間だもの。だから「新しい日常」という呼び方は使わない。あと少し我慢すレバ、何食わぬ顔にマスクして普通が戻ってきます。あの良いことばかりではない、ごくごく普通の日常を、それぞれのペースで楽しみましょう。
【 Fanfarra (Cabua-Le-Le) / Sergio Mendes 】
寅間心閑
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