一.エレファントカシマシ
バイト先の先輩から借りた20万で、どうにかこうにか引っ越した経験がある。不動産屋に「何とかコレで」と頼んだ結果、「家賃4千円値引きして/礼金なくしてくれたら、今すぐ決めますから」と大家に強気の交渉をふっかけて、その日のうちに間取り図しか見ていない木造一戸建ての二階へ入居した。総額19万8千円。お釣りの2千円は、とりあえず先輩に返して誠意を示した。二十代だもの。色々テキトーだ。安い・古い・広いの新居に、いつの間にか幼馴染みも住みつき、テキトーさは急上昇。振り返るまでもなく、ただただ楽しかった。
その頃、ライヴでエレファントカシマシを観た。狙って観に行った訳ではなく、行ったらゲストで出演。特に熱心なファンではなかったが、その笑っちゃう程の独自性は魅力的で、デビュー盤から聴き続けていた。「デーデ」、「珍奇男」、「遁世」、「奴隷天国」、どの曲も素晴らしい。ただ当時彼等は、レコード会社との契約が打ち切られていた所謂不遇の時期。どんな感じだろう、と興味半分でステージを眺めていた。そう、気を抜いていた。そして鳴らされた一曲目は「悲しみの果て」(‘96)。ド真ん中を綺麗に撃ち抜かれてしまった。何日経ってもあの無駄のない旋律と、凝り過ぎない構成が耳から離れない。まだリリースされていない曲を、あんなに待ち続けたのは最初で最後だ。ようやくシングル(短冊型8cmCD)として発売されたのは四ヶ月後。あの日耳にした感触を裏切らないアレンジが素晴らしく、飽きずに何度も何度も聴いた。ちなみに今聴いても全然飽きない。さらに四ヶ月後、アルバム『ココロに花を』(‘96)がリリース。驚いたのは同居人の幼馴染みも買っていたこと。訊けば四六時中「悲しみの果て」が流れるので、と苦笑い。とりあえず試したのは、二枚同時に流せるか否か。意外に難しく、結局成功しなかった。
さて、ようやく呑み屋が再開となった。真っ先に詣でたのは、気兼ねの無い下北沢の友人の店。マスク越しに「あけましておめでとうございます」と頭を下げたのはおカミさん。いや、本当に開けておめでたい。待ち続けたのは呑む側だけではなく、むしろ呑ませる側。もう後戻りしませんように。6Pチーズを肴に赤星大瓶を呑みながら、飽きないことを再確認。呑むこと、ではない。良い店で呑むこと、は全然飽きない。さあ、まだ顔を出す店があちこちに。「涙のあとには笑いがあるはずさ」。本当なんだろう?
【悲しみの果て / エレファントカシマシ】
二.ハービー・ハンコック
気になっているのに、なかなか聴けない/聴かないアルバムがある。聴けない理由はそこそこシンプル。レア盤で高かったり、そもそも出回ってなかったり。またCD化されていないので躊躇、というパターンもある。一方聴かない理由は少々複雑、というかモヤモヤしがち。やはり多いのは「いつでも聴けるだろうから後回し」型。これ、本当に多い。遠慮なく言ってしまえば、「聴きたい!」という熱意の欠如。「聴けない」よりもタチが悪く、結果的に聴く確率も低い気がする。先日、そんな「聴かない」アルバムを聴く機会があった。ハービー・ハンコックのブルーノート三枚目『インヴェンションズ・アンド・ディメンションズ』(‘63)。気になっていた理由はクールなジャケットと、ピアノ/トリオにパーカッションが入っている編成。あとはネットでポチるだけ、という状況が長く続いていたけど、全然別ルートで成就。肝心の内容は期待したほどラテンじゃないが、予想以上にパーカッシブ。クセになってよく聴いている。
新しい店をチェックして後日実際に訪れることは、間違いなく外呑みの醍醐味のひとつ。旅行に喩えるほど鈍くはないが、これが出来ないのは辛かった。付け加えると、個人商店の立飲み/角打ちの営業状況は、令和でも把握しづらく暫くは遠征するにも運頼みとなる。先日訪れたのは葛西の立飲み「Y」。前からチェックしていて念願の初入店。アクリル板と喧騒が共存する店内に入り、迷わずカウンターに立ってチューハイ、そして最安値110円の肴「揚げにんにく」をオーダー。久々の新規開拓に飲酒前から解放感急上昇。間違いなくこれは「自由」です。若い、というより幼く見える(失礼)男性店員の初々しさもムード満点。ニンニクは丸ごと一個に、味噌ニンニクマヨ(多分)が添えられた逸品。きっと次も頼むな、と確信しながら熱々を口に放り込む。
【 Succotash / Herbie Hancock 】
三.ビースティー・ボーイズ
学生の頃、通学時によく聴いていたビースティー・ボーイズのデビュー盤『ライセンス・トゥ・イル』(’86)。このヒップ・ホップ作品初の全米チャートNo.1アルバムで一番印象的だったのは、テンポがスローなのに野蛮な気持ちになれるところ。レーベル・メイトだったパブリック・エナミーや、元々の出自であるハードコア・パンクとは違う種類の野蛮。もっと気楽な、とりあえずいいじゃん的なルーズなノリ。英語分かんねえけどいいじゃん的な感じで長らく愛聴していた。特に一曲目の「Rhymin & Stealin」の「アリババ」連呼のクダリはいまだにツボ。まるで「空耳アワー」みたい。
外呑み解禁を祝して、地元で呑むことに。ひとり、ではなく前述の同居していた幼馴染みとふたり。実は数ヶ月前に、記憶の一端と持ち物を失くすルーズな呑み方をしているので今回は慎重に。軽く喉を潤した後、二軒目に選んだのは老舗の地元密着型居酒屋。昭和感溢れる好みのタイプ。初入店だったけど、私のツレはグイグイ派。ママさんと近所の情報をシェアしながら、早々と次回の来店を約束する仲に。すっかりリラックスした後は、いつしか呑み方もルーズになる。気付けば同居していた四半世紀前と何も変わらない。
【 Rhymin & Stealin / Beastie Boys 】
寅間心閑
■ エレファントカシマシのCD ■
■ ハービー・ハンコックのCD ■
■ ビースティー・ボーイズのCD ■
■ 金魚屋の本 ■
■ 金魚屋 BOOK Café ■
■ 金魚屋 BOOK SHOP ■