鶴山裕司さんの連載小説『横領』(No.02)をアップしましたぁ。金魚屋から『日本近代文学の言語像Ⅱ 夏目漱石論-現代文学の創出』を好評発売中の、鶴山さんの連載小説です。石川は全部読みましたが『横領』にはプロットがあります。いわば通俗的純文学小説で金魚屋好みの作品です。漱石に小説の書き方を教わった人だから当然か。深刻そうな顔つきだけど、なーんも事件が起こらないのが純文学小説だといった茫漠としたイメージがありますが、それはもちろん間違いです。通俗的体裁でも文学の中の最も純な部分は表現できます。
文学金魚掲載の『聖遠耳』や『現代詩人論』などを読めばわかるように鶴山さんは詩人としてとても優秀です。理論的にも実感的にも詩を正確に理解しています。石川は文学金魚を始める際に鶴山さんから詩のレクチャーを受けましたが、『詩は原理的に形式・内容両面でまったく制約のない自由詩である』と深く納得しました。鶴山さんの原理論はじょじょに浸透していて、最近では詩を現代詩ではなく自由詩と呼ぶ人が増えましたね。もちろん鶴山さんがどこかで書いておられたように、それは単なる呼称の変化の問題ではありません。詩を巡る思考のパラダイム転換が伴っていなければ呼称を変えても意味がない。
ただ詩人として優秀な作家が、もはやまったくと言っていいほど詩にのみこだわっていないところが現代文学が置かれた難しさです。歌壇・俳壇・詩壇・文壇を問わず文学の世界には今も厳然と制度があります。その制度に沿って出世してゆくのが一昔前は当たり前でした。今もそんな制度的出世街道を目指す作家たちはいるわけですが、それとはハッキリ別の動きをし始めた優秀な作家たちが現れ始めています。
いずれにせよ現代文学は間違いなく質的に変化してゆくわけで、それに伴い必ず現実制度も徐々に変わってゆく。つまり既存の文学制度に首までどっぷり浸かってそれが世界だと思い込むのはかなり危険。また既存制度に沿った作家たちから新しい文学が生まれてくる可能性はとても低い。作家なら広い視野で新しい試みを始めている作家たちの動きをチェキラする必要があるでしょうね。作家にとって自分の作品が一番大事なのは当たり前のことですが、それとは別に作家には文学の世界を活性化させるための最低限の努力が必要です。
■ 金魚屋 BOOK Café ■
■ 金魚屋 BOOK SHOP ■
■ 第8回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項 ■
第08回 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)応募要項です。詳細は以下のイラストをクリックしてご確認ください。
■ 金魚屋の本 ■