第06回金魚屋新人賞授賞の、片島麦子さんの連載小説『ふうらり、ゆれる』(第04回)をアップしましたぁ。
古羊さんは医師の説明を受けながら、白く光るシャウカステンに並べられた何枚ものフィルムに目を奪われている。(中略)
医師には悪いと思いつつも、母親は白けた気分を隠すことができない。
それには理由があった。(中略)
だってあたしはもう知っているもの。このさき何がどうなるかとかそういうこと。ついこの間、よい見本を見送ったばかりなのだから。
(片島麦子『ふうらり、ゆれる』)
古羊さんは父親をガンで亡くし、次いで母親もまたガンで余命宣告を受けます。引用は古羊さんと母親が医師からガンの説明を受けるシーンですが、心理描写が古羊さんから母親にスッと移ってゆく。独自の文体で素晴らしいと思います。よほど作家が地上から高い位相にいなければ、こういった文体は不可能でしょうね。
西脇順三郎は『アン・ヴェロニカ』という詩で「この女にその村であつた/村の宿屋でスグリ酒と蟹をたべながら/紅玉のようなランボスの光の中で/髪を細い指でかきあげながら話をした/「肉体も草花もあたしには同じだわ」」と書きました。
片島さんの小説には、西脇的な「肉体も草花もあたしには同じだわ」という雰囲気があります。古くて新しい日本文学の秀作です。
■ 片島麦子 連載小説『ふうらり、ゆれる』(第04回)縦書版 ■
■ 片島麦子 連載小説『ふうらり、ゆれる』(第04回)横書版 ■
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